第六話part13『アメージンググレース』

牧野:3U 楽屋(夜)


牧野です。ひょっとこ仮面の人とアミリンを病院に連れて行くことにしました。

と、そこへ今井さんが部屋に入ってきました。


「大丈夫かっ美咲っ」


え? 美咲?


今井さんがひょっとこ仮面の人に近づき、仮面を取り外すと、そこには美咲ちゃんの姿が現れました。


「美咲ちゃん」

「玉藻・・・」


美咲ちゃんは痛そうに顔をゆがめつつ、笑顔を見せてくれました。

アミリンは大分回復してきたのか、体を動かしています。大丈夫そうです。よかった。


「これは立派な傷害事件です。捜査します」

「まあまあ、あまり事を荒立てないでくれないか。とにかく美咲は俺が病院に連れて行く。

キミ達はもう帰りなさい」

「わかりました、今井店長。でももし今度も同様の事が起こったら、そのときはわかってますね」

「ああ、わかってる。さあ、美咲、俺の肩を掴め」


美咲ちゃんは言われたとおりに今井さんの肩に手を回し、部屋を出て行きました。

部屋の外からは日下さんと狩川さんの声が聞こえます。きっとあの二人も一緒に行くのでしょう。


「タマちゃん、途中まで一緒に帰ろう」

「御免、今は一人にしてほしい」

「タマちゃん・・・」

「ごめんね、アミリン、こんなことになっちゃって」

「ううん。気にしてないよ」

「ありがとう、じゃあね」


私は傷だらけのベースをケースにしまって楽屋を出ました。



長畑:六本木周辺(夜)


長畑だ。今日はとても寒い。俺は牧野さんに食べさせたくて、コンビ二で肉まんを一つ買った。

彼女は今どこにいるのだろう。探さなくちゃ。


牧野:六本木の小さな公園 (夜)


牧野です。公園のブランコに座り、物思いに耽っています。

と、そこに長畑さんがやって来ました。

「牧野さん」

「長畑さん、どうしてここに」

「いや、なんとなく。一人でいるんじゃないかと思って」

「そうですか」

「隣、座ってもいい」

「はい、どうぞ」


長畑:六本木の小さな公園 (夜)



長畑だ。俺は牧野さんの隣のブランコに腰掛けると、肉まんを取り出し、牧野さんに差し出した。

「ほら、これたべなよ。今日まだ夜ご飯食べてないでしょう」


牧野さんは肉まんを見て、喉を鳴らしていた。よっぽどお腹が空いていたらしい。

牧野さんは俺から肉まんを受け取り、一口頬張ると、幸せそうに笑みを浮かべた。


そして肉まんを二つに割り、片方を俺に差し出した。

「私、小食なので、半分こにしましょう」

「え」

「はい、これ長畑さんの分」


俺は言われるがままに肉まんを受け取り、そして口に入れた。これは美味い。


「お気遣いありがとうございます」

「いや、それほどでも」


会話はそこで終わり、お互い暫く沈黙した。でもその沈黙は息苦しいものではなかった。


その後会話の口火を切ったのは牧野さんだった。


「あの、一曲聴いてもらってもよいですか」

「え? ああ、いいよ」


そう言うと、牧野さんは傷だらけのベースを取り出し、アメージンググレースを弾き始めた。


凄かった・・・。


 


 

ライブのときも迫力があったけど、

そのときの彼女は、


まるで弦楽器と一心同体になっているかのようだった。


 


 

彼女の演奏に、


 公園の外から俺たちを覗き込む通行人が出始めた。


 


 


そりゃそうだ。こんな演奏、見たことがない・・・。


 


 

俺は音楽のことはよくわからないけど、


 

きっと彼女はとても才能がある人なんだろうな、と思った。




 


彼女の才能を、守ってあげたい。


 


そんなことを思いながら、


 俺は牧野さんの演奏を静かに聴いていた。




 

弾き終わると、


 牧野さんは俺に一礼してからベースをケースにしまい、


 

肩にかけて立ち上がった。そして俺の前にやってきた。











「今日は、私の音楽人生にとって、・・・屈辱的な一日でした。


 

せっかく来てもらったのに、良いもの見せられなくって、御免なさい」


  


 


言い終えると、牧野さんは俯いて、ずっと地面を見つめ始めた。


 

肩や腕が小刻みに震えてた。寒さ以上の何かを感じさせる震えだった。


 

彼女の心に深い傷をつけた奴らのことを、俺は絶対に許さないと誓った。







「・・・次は必ず、素晴らしい歌を披露しますんで。


 路上ライブ、ぜひ来て下さい」




 




「ああ、勿論行くよ。駆けつけるから。よし、帰ろう。帰り道も一緒だし」

「そうですね、送って下さい」


俺は牧野さんと二人で家に買えることにした。

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