第5話Part3『ニートモダチ』
日下:長畑の家 321号室 リビング 夜
日下よ。今はコーヒーを飲みながらソファに座り本を読んでいるわ。
長畑君と東矢君はテレビを観ている。犬伏真希は夕食の洗い物をしているわ。
と、そのときテーブルに置いてあった犬伏のスマホが鳴った。誰かからの電話みたい。
「真希、電話鳴ってるわよ」
「ちょっと待って、今でる。」
犬伏は大急ぎでエプロンで手を拭くと、スマホを手にして電話に出た。
「もしもし、犬伏ですけど。はい。確かに友人ですが、今は一緒に住んでなくって・・・・」
この感じ、一体誰からの電話を受けているのかしら。コーヒー飲もう。
「えっニート?!」
あたしは思わずコーヒーを噴き出してしまった。
「ちょっと真希、それだけは駄目よ」
「違うよ、あたしじゃないって」
犬伏が電話を抑えてあたしに言ってきた。
「はい、わかりました。何とか連絡を取ってみます」
そう言って、犬伏は通話を切った。
「一体何なの」
「真琴が会社を無断欠勤して連絡が取れないみたいなんだって。あたしちょっと家に行って様子を見てくるよ」
「ふーん、それは大変ね。せいぜい頑張ってね」
「ニートは駄目だぞ、犬伏」
「だからあたしじゃないってば」
犬伏:真琴の家 玄関前 昼
やってきた土曜日、あたしは真琴の家にやってきました。さっそくインターホンを鳴らしましたが、
誰も出る様子はありません。まさか、死んでるんじゃ。
「真琴、あたしだよ、犬伏真希だよ、いたら返事をして」
あたしは必死にドアを叩きながらそう呼びかけました。
すると徐にドアが開き、変わり果てた姿の真琴が顔を出してきました。
「真琴・・・」
「真希、何しにきたのよ」
「あなたの会社からあたしに連絡があったんだよ。会社を無断欠勤して連絡が取れないって」
「なんか、体の具合が悪くって、働く気がしないのよね」
「どこが悪いの? 熱があるの?
それならお医者さんに行かないとダメだよ」
「あんたに言われる筋合いないわよ。
自分の体のことは自分がよく分かってるんだから」
「真琴。この間は、酷いこと言って、傷つけたりしてごめんね。
あたしさ、カッとなるとなんか口が悪くなるみたいで、本当にごめん。
あたしにとって、真琴は大切な友達だから、今、
こういう状況だというの知って、あたし心配だからきたんだよ」
「ふん。よく言うわよ。あたしのことなんて、
内心どうでもいいって思ってるくせに」
「そんなこと思ってない。ほら、食材買ってきたの。夜ご飯作るから、
一緒に食べようよ。真希ちゃん特製の唐揚げを・・・」
「帰って。一緒にいたくないから」
「どうして、真琴。あたし達、高校時代からずっと一緒だったじゃん。
あたしがグループにはぶられて孤立してたときに、
助けてくれたのは真琴だったじゃん。
何でも話せて、一緒に笑って泣きあえる親友は、
あたしには真琴だけなんだよ」
「男友達2人と同棲してる奴が、何をカッコつけてるのよ。」
「何言ってるの? あの二人のことは真琴も知ってるでしょ?
真琴が思ってるような関係にはならないよ、多分・・・・」
「どうだか、虎視眈々と狙ってるんでしょ!?
あたしの彼氏を奪ったみたいにさ」
「結局その話・・・。だから、何度も言ってるじゃん。
それは誤解だって! あたしは本当に何もしてない!
彼に優しくなんてしてないし、
気のある素振りだってしたことない!」
「嘘つき! すっと一緒だったあたしには分かる。
あんたは無意識を男心を惑わせる、魔性の女なのよ」
「魔性の女・・・あたしが・・・ひどい。そんな。
真琴・・・あたしは真琴のこと、一番大事に思ってたのに。
あたしにとって、一番の親友でしょ?
どうして、どうしてあたしを信じてくれないの!?
ねえ、どうしてよ(涙声)!?」
「お前よりも、真希ちゃんの方が気が利くし、
美人だし、上品だし、いつも笑顔だし、何もかもが大違いだねって
言われたの。凄く傷ついた。」
「ひどい。最低だよ、
自分の大事な彼女にそんなこと言う男なんてっ」
「最低なのは、
彼にそんな風に思わせぶりな態度を取ったあんたでしょうが!!」
「まっ真琴・・・」
「あたしには、彼が全てだった。
ずっと一緒にいたかった。結婚だってしたかった。
お揃いのネックレスまでもらったのに。
彼はずっとあたしだけを見ててくれてたのに。
なのにあなたが、あなたが彼を狂わせたのよ。
全部、全部あなたのせいなのよ」
あたしには、もう、何も言うことが出来なくなってしまった。
あたしは悪くない?
違う?
それとも、あたしが悪いの?
あたしは、ただ、二人の関係が少しでも上手く行くように、
それだけを願っていただけだったのに・・・。
真琴は、変わってしまったの?
あたしとあんなにも笑い合っていた真琴は、もう帰ってこないのかな?
恋は、こんなにも人の心を歪ませる物なの?
「そっそうだね。全部、あたしのせいかもね。ごめんね。
あたし、馬鹿だから。無意識に、真琴の言うとおりのこと
しちゃってたのかもしれないね。」
「・・・もう二度と、あたしの前には、現れないで」
「分かった。分かったよ。でも、やっぱりあたしは真琴が好きだし、
あたし、馬鹿だから、時々メールとか、電話とかしちゃうかも。
そのときは、許してね。」
「(無言で犬伏から目を逸らす)」
「じゃあね、真琴。早く職場戻りなよ。
今みたいな姿、あたしは見たくないからね」
「・・・ごっこだったんだよ」
「え(振り返る)」
稲葉「きっとあたしと真希は、友達ごっこをしてただけなんだよ」
「・・・真琴」
「じゃあね、サヨナラ」
その場に立ち尽くすあたしを横目に真琴はドアを閉めてしまいました。
あたしは、何にもいえないまその場に立ち尽くしていました。
あたしは閉まったドアに背中を預けました。少しだけ上を見上げて、
涙がこぼれないように我慢してたけど、
耐え切れなくなって、
そのまましゃがみ込んで泣いてしまいました。
あたしは、今日、失ってしまったんだ。
大切な、友達を。
あたしはごっこなんてしてない。
あたしは、本当に心から真琴を大事にしていたんだよ。
なのに、こんなことで友情って終わってしまうものなの?
自分の大切な友達や家族を傷つけてまで貫くのが恋だと言うのなら、
あたしは、もう一生恋はできないかもしれない。
もうなんだか、それでいい気がしてきた。
今は、恋をするのが正直怖い。
ねえ、れん坊・・・れん坊は、
こんな今のあたしに、なんて声をかけてくれるのかなあ・・・。
いや、こんなあたしの姿は見せたくないな・・・。
家に帰ったら、何事もなかったかのように、明るく振舞おう
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