幸せ以外知らない
華蘭蕉
第1話
『幸せは歩いてこない、だから歩いていくんだね』
昔、この歌を聴いた私は歌詞の意味が理解出来なかった。何故なら、他者曰く幸せは自分に歩いてくる物だから。
私の周りの人達は、自分の事を色々な理由をつけて「幸福だ」と言う。何回も言われているうちに私は『そうか幸せなんだな』と受け入れて、私は自身の事を幸福だと思っていた。
勿論、私が幸福だと自覚している事を周りの人に話したりはしない。自分が幸福だとか幸せだとか評価されても、私は「そう? 」 と無理矢理口角を少し上げて微笑みながら軽く疑問を呈するだけだった。
どうやら自分は周りから、明るくて、いつも笑顔で、お金持ちで、容姿端麗で、成績が優秀で、これ以上挙げるのは何か気恥ずかしいが本当にそうと言われるので、周りは私に対して羨望だとか僻みだとかそういうものを感じているのだろう。私と身体を取り替えっこしたいと代わる代わる違う友達から言われた。
こんな事で周りの事を嫌がるとかは無い、だけど基本的にそういうものを向けられても私が求めていない時以外は自己肯定感や愉悦感、そういう私の幸福の源となる感情が生まれないのは私の不器用な所だと感じてしまう事が多々あった。
結局、自分が褒められている気がしない。産まれながらに持ち合わせた物を褒められるというのは私にとって自分を複雑な気分にする材料だった。
けど、私はそんな気分を長く持てるほど厄介な気性じゃ無かったから数秒後には頭の中から綺麗に無くなっていた。確かにこういう私の気性は、それが出来ない人にとって幸福という物なのだろうと理解していた。
でも、そんな私が最近とある事で悩んでいる。
ようやく私に歩いてきた不幸だと思った。
胸が苦しいのだ。その長い睫毛を携えた瞳と視線が合う。その度に胸が締め付けられる。初めてこれを感じた時は、人の目にはこれ程の力があるものなのか、私は何か心臓の重い病気にかかってしまったのかと思った。
なるべく視線を瞳から逸らそうとするけれど、いつのまにか吸い込まれてしまう。目が合うと綺麗な白い歯がハッキリと見える心地いい程の笑顔が返ってくる。その度に全身から汗が吹き出して、熱を帯びる。彼の笑顔には人を熱にするウイルスの様な何かが篭っているものだと思った。
彼は私にとって不幸を
普通の人間の定義というのは私には分からないが、自分は特に幸福だと人から言われるので、私は普通の人間では無いのだろう。認めるのも何か引っかかる物があるけれど、そうと万が一にも仮定してみると、本来なら不可解なこの現象を不幸と感じながらも楽しんでいる、ということは普通の人間から外れている自分にとって何も不思議なことでは無いのだ。
でも、これはそんな言葉を取り繕って出来た複雑な話じゃなくて、私は気持ちにも誤魔化していたという事をようやく今彼の前に立って理解できた。
ただ単純な話、一言で言うと、私"
そして、それは歩いてきたのが紛れもなく幸福だったという話だ。
◇◇◇◇◇
「おはよーっ!かすみんすきーっ!」
心地よいものが全身に駆け巡る様な気持ち良さ、たまにあるよく眠れた日の朝はそんな気分に包まれ、夜に冷え切った空気と眩しい太陽に照らされた道を切り開きながら学校へ行く。それは前向きな気分になるもので爽快感の溢れたものだった。だが、耳を突き抜ける甲高い可愛らしい声と出会い頭に腰にぎゅっと掴まれた感覚が私の心地よい登校を台無しにした。
「! ?」
私の腰に抱きついたのは同じ教室で小学生の頃から一番仲の良い友達のすみれちゃん。私達の学年にしては少し背が低くパッチリとした目とミディアムヘアーを持った、クラスのマスコットキャラクターに近い存在の女の子。この子の性格は子供ぽいというか、あえてそんな感じに演じてみんなを和ませているという感じだった。
別に女の子から抱擁される事は慣れているし嫌いじゃない、寧ろ私自身が求められているみたいで安心感はある。だけどさっきまで感じていたなかなか味合えない爽快感が無くなったのは少し惜しかった。
「くんくん……今日も良い匂い。かすみん成分補充中……」
制服に覆われた胸元に顔をすっぽりと埋めて匂いを嗅いでいた。流石にここまで来ると恥ずかしさが上回ってくるが、いつもの事に段々慣れてきている私が怖い。
「すみれちゃんっ! ?いきなり抱きつくのやめてよっ!びっくりするじゃんっ!あと何そのやばそうな成分!?」
「幸せになる為の成分だよー」
埋めた顔を上に向けて神様に
「なによーそれ、ハッピーターンの粉みたいなやつ?」
「そうそう、舐めると病みつきになるやつー」
彼女が舌舐めずりに嫌な予感がして少し顔を引き離す。
「私はお菓子か!」
「そんな感じじゃない?身体のこのフワフワ感とか綿菓子みたいじゃん!」
「ひゃっ!?」
さっきまで腰に回していた両手の内の片手で私の胸をワサワサと触ってきた。
「感度よし、大きさよし、触り心地よし。これでいつでも私のお嫁さんにこれるよ!」
「やめんさいっ!」
軽めのチョップを頭に打つ。コツンと当たるとすみれちゃんは胸と腰から手を離し頭を抑えて目に嘘臭い涙を溜める。
「ひどーい。すっごい声出して感じてたくせにー」
確かに私の身体は少し敏感というか、不意打ちに弱い。でも改めてそんなことを言われたら凄く恥ずかしい。
「ばっ!そんなこと白昼堂々と言われたら、本当にお嫁に行けなくなるじゃないっ!」
「だからーその時は私がお嫁さんに貰ってあげるって!そしたら、かすみんの幸運と逆玉にあやかれるよー」
「目的はそっちかいっ」
まるで、別にすみれちゃんのお嫁さんになっても良いかの様な返事をしてしまった気がする。
「もちろん、かすみん性格も顔もかわいいし、ちゃーんと大切にするよ?」
明らかに
「真面目に答えなくていいからっ!」
軽くあしらおうとするも言葉選びが上手くいかず、まるで漫画に出てくるツンデレ少女が赤面になりながら放つ台詞をその表情のさながらに放ってしまう。
「ほらほらーそういうとこー。冗談なのに真面目に受け取っちゃうところーやっぱすきー」
また、すみれちゃんは勢いよく後ろに抱きついてきた。私の体が彼女の体が重なって物理的に重い登校になってしまった。
教室に着くといつも通り私の机、つまり教室後ろの方に沢山の女の子が来る。女の子の顔達が波のように代わる代わる入れ替わってく光景は最早私にとっては日常茶飯事で、楽しい事もあるけれど少し霞みがかった様な楽しさな気がした。
その波の合間から、例の彼の顔、正確に言うとその長い睫毛を携えた男の子らしからぬ大きな瞳が見えてそれに吸い込まれてしまう。そして瞬間目が合うと口の中が甘酸っぱい味で満たされる。
このくらりと倒れてしまいそうな味が不思議だった。きっと摂取してはいけない味のハズなのに、自ら沼にハマっていくような感覚、これが不幸という事なのだろう。
「どーしたのーかすみん?」
「んー何でもないよー」
周りにいる皆んなに自分が不幸になってしまったのではないかという事を悟らせないように、がっかりさせないように、表情を取り繕う。
「顔真っ赤だよー」
すみれちゃんが鋭いツッコミをしてきた為、頭を回転させて言い訳を考える。
「大丈夫ーちょっと暑いだけだから」
暑いのは本当で、女の子が8,9人くらい集まってしまうとそれだけで熱気が凄い。女の子特有のふわふわした甘酸っぱい汗の香りが混じり合っているのと密度が相まって、体感だけでも湿度が高くなっている気がした。多分この輪に男の子が入ろうものなら、香りと湿度にやられて立ち眩みしてしまいそうなものだと思う。
「確かに今日は一段と女の子を引き寄せて熱気に満ち満ちてるよね」
すみれちゃんは周りを見渡して確認すると、少し妬いた様な声を出した。
納得して貰えたたなら結構だけど、色々な事のせいで目眩がする。例えば、それはすみれちゃんがたった今出した嫉妬の様な声。でもこれは私に対する嫉妬じゃなくて、周りの女の子のせいで私を独占できない事に対する嫉妬だ。すみれちゃんは言葉には絶対出さないけど、態度が分かりやすい、若しくは敢えて分かりやすい態度をとっているのか、だがこれは確実に同性であるはずの私に好意の様なものがあるという証拠だ。
「すみれ妬いてんぞー。かすみんは皆んなのものだからなー」
「妬いてないもーん。かすみんと私は将来を誓い合った仲だもーん」
「そんな誓いしてないから」
少々呆れながらツッコミを入れるが、周りからツンデレだとか聞こえてくると、こみ上げてきた溜息を思い切り吐きたい気分になってしまう。でも、そんな事私の幸福の品位的なものを保つ為にしてはいけない。
「はいはい、もう先生くるから、違うクラスの子は自分の教室に戻って」
「はーい」 「またくるねー」 「お昼一緒に食べようねー」
今日は三人も違うクラスから来ていたのか。やけに多い訳が分かった気がする。
そして、朝のホームルームが始まると先生の話が耳に入らず、思わずまた前の席方にいる彼の方を見てしまう。私の視線に気付いたのか、一瞬目が合い、思わず視線をずらして見ていないフリをする。
微笑んでいた。胸が締め付けられる様な熱さ。それを思い出すと、全身が甘く蕩けてしまいそうだった。私はなんて不幸な目にあっているのだろうか。
これは重症だ。流石にこれは誰かに相談しようと思うが、誰が良いだろうか。しばらく考える。やはりここはお母さんやお父さん?それともお医者さん?うーん……しばらく頭の中が重く何も出てこない黒になる。そして、ふとすみれちゃんの顔が思い浮かぶ。
すみれちゃんになら相談してみても大丈夫かな?彼女は確かに私に対して盲信的な情景を向けているが、私に対して何かを期待しているというよりかは私と共に行動したいから隣に居るという感じがする。
そうと思うと次の長い休み時間に二人で話せないか聞いて見ようと決心した。
学校の中で二人きりになれる場所と考えると私は校庭の裏庭や屋上、休憩室などが思いついたが、この学校は特殊なのか只の合間の休憩でも何故か何処でも人が居る。なので、今は殆ど空き教室で放課後は軽音部の溜まり場兼遊び場、又は吹奏楽部の楽器置き場になっている音楽準備室へ行くことにした。
全く関係無いが、なんでこんな事に詳しいかというと私は軽音部の部長で、すみれちゃんは副部長だからだ。因みに音楽準備室の鍵は本来なら職員室に取りに行かないといけないが、めんどくさがり屋の先輩がこっそり作った合鍵をたまたま代替わりの時に貰ったので手元にある。この鍵を使って先輩は授業をサボったりしていたようだが、私の場合は今初めて部の為以外の使い方をできた気がする。
先程、すみれちゃんにこの件について都合が合うかどうか聞いたところ「告白ー?」と茶化された後に「いいよー」と返事をされた。一瞬、茶化された時、平然とは程遠い気持ちになったのは何故なのだろうか。これも彼……万作くんの"魔力"の一つなのだろうか。
準備室は厚く黒色のカーテンが掛かっており、光が遮られていた。電気を付けると様々な楽器が顔を覗かせる。基本的には私達とは全く関係の無い吹奏楽部の持ち物で、どうしても持ち帰ることができないような大きさの打楽器系のティンパニーや鍵盤楽器系のシロフォンなどが整理整頓されて並んでいた。
すみれちゃんは少し遅れて準備室に来た。休み時間はまだ10分ある為充分に時間はある。
「珍しいねー休み時間に準備室開けるなんて。相談?」
何も考えてなさそうな軽い音が聞こえる。本当は色んなこと考えてる癖に。これは言いがかりだけど、態度とキャラクター性が中身と違ってるお陰で何か得しててずるい。
「うん。なんかさ私、病気にかかっちゃったみたいなの」
それでも私は、そんなすみれちゃんに仲間意識のような物を感じたからこそ、彼女に打ち明ける。
「命にかかわる病気なの?」
神妙な面持ちで彼女は私の顔を見る。
なるほど、そりゃそう返されるよな。私は慌てて誤解を解く。
「いっいや、ほら別に末期ガンとかそういう話じゃなくて!」
それを聴くとすみれちゃんは溜めていた空気をふうっと出した。
「びっくりしたー心配させないでよー。まぁ心配するだけ、かすみんの場合骨折り損か!」
「それ、どーゆーことよー」
半目になって彼女を見つめる。
「私にとってかすみんは幸福の女神様だから」
迷いの無い瞳で見つめられると私からは無理矢理広角をあげた微笑みしか出なかった。
「そう?」
「そうだよーところで話戻すけどその幸福の女神様がどんなお悩み相談?」
その小さな背丈ですら小さく見えてしまう顔を傾げて彼女は聞いてくる。
「あぁ、そうだった。なんか最近急に身体中が熱くなったり、金縛りみたいに締め付けられたりするのよ」
「まさか、かすみん遂に幽霊にまで幸福を求められるようになっちゃったの?」
「えっ? まっまぁ、ニュアンス的にはそんな感じかなぁ…」
返答に戸惑うが、万作くんには霊的でもあり何か生まれ持った特殊なモノがあると感じていた。
「うーん、除霊方法か……なんか、かすみんらしくて安心したぁー」
すみれちゃんに心外な事を冗談らしく言われるので、ノリ突っ込みをする。
「私ってそんなオカルトチックな存在なのっ!?」
「いやいやー私からしたらかすみんの存在自体がオカルトみたいなもんだよーまぁ冗談だけどねアハハ」
そのミディアムストレートの髪の毛を親指を軸にしながら人差し指でくるりくるりと可愛らしく弄りながら、舌を出して言った。
「ところで何か良い方法ないの?」
「うーん、そだなぁー真剣に考えてるなら神社とかそういうところに行ってお祓いして貰えば良いと思うけど、気持ち程度ならお祓いして清めた塩を家に盛って置いたりとかが一般的だよね。ネットとかにはファブリーズとか身体にかけて貰うだけでお手軽除霊とかができるって書いてあったの見たことあるけど」
普段そのような物に興味が無い為色々な物があるんだなと感心をしたが、ふと幽霊とかそういう精神的なものは受動的な行動を受けるだけで体から出て行ってくれるものなのかと少し疑問を抱いてしまった。
「ふーん、色々な物があるねー。んーでもこういうものって結局自分の心の持ちようで変わってくるから自分から抵抗したりするのが大事なんじゃないの?」
「さぁー? もし自分から行動してお手軽にできる除霊方法をしたいなら考えるけどそんなのあったっけか……」
しばらく二人で顎に手を当て少し考える。
「びっくりするほどユートピア……?」
すみれちゃんが訳の分からない日本語を呟いた。
「びっくりするほどユートピア!?」
彼女が間髪入れず吹き出しながら二度目を言い放った辺りで嫌な予感がする。
「なにそれ……?」
「ゆっユニークな変た……除霊方法だよ」
笑いをこらえながら何かを言いかけて除霊方法と言い張る彼女は続けてほくそ笑むように言う。
「よしやろう……ふっふっふっ……今日放課後暇? 私の家でびっくりするほどユートピアやらない?」
『名詞かよっ!その日本語っ!』とツッコミたくなる気持ちを抑えてすみれちゃんの頭をコツンと叩く。
「あうっ!」
「何企んでんのよっ! そもそも何よそれ!」
突っ込んだところですみれちゃんが携帯でチラリと時間を見た。
「あっ! あと2分で授業始まっちゃう! ほらっ! 行かなきゃ!」
バタバタと駆け足で準備室を出て行く。
「えっ? あっ? 待てコラぁっ!」
急いで電気を消して準備室の戸を閉めて、教室へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
来てしまった……
目の前にあるのは夕日が反射する白に塗られた二階建ての可愛らしいお家、隣にいるのは小悪魔のようにそこへ誘おうと微笑んで手招きしているすみれちゃん。
「さっ入って入って!」
彼女は玄関のドアを開けて私を入れようとする。確かすみれちゃんの家族はお母さんと弟は見たことあるけど、どっちらもすみれちゃん似で背が低かった気がする。
「あっ、お邪魔します」
靴を脱いで床の間に上がるとすぐそこにリビングが見え、そこにあるソファーに被さるように寝転がっているが携帯を触っているので顔がよく見えないすみれちゃんのお兄ちゃんらしき人と、隣接している台所で料理の準備をしている彼女のお母さんが見えた。
「おかぁーさん!久しぶりにかすみん連れてきたよー」
すみれちゃんはリビングを覗いて声をかけると、台所からドタバタという音が聞こえた後、勢いよく飛びかかってきた小さな影に抱きつかれる。
「えっ! ?」
「ご無沙汰〜かすみんちゃん。一年ぶりくらい?元気だった?相変わらずいい匂いだね〜」
ほのかに甘い香り、すみれちゃんと同じ位、いやそれよりも少し高いくらいの背で、肩甲骨を覆えるくらいまで伸びたロングヘアー、すみれちゃんと同じく歳に不相応なぱっちりとした目を持っている女性。つまり、すみれちゃんのお母さんが私に抱きついてきたのだった。
「あっあの……」
「いやいや〜急にごめんね〜いつもすみれから話を聞くのよ〜凄く抱き心地がいいって」
優しくそのまま抱擁されている。力加減がすみれちゃんとは違い優しく、本当に親子なのかと思う程だった。
「おかぁーさん! 私の許嫁に抱きつかないでっ!」
まるですみれちゃんはオモチャを取られた子供のような声を出しながら私に抱きつこうとする。
「いや、なんで私が許嫁なんだよっ!」
「あうっ」
辛うじて動く腕でポンと頭にツッコミを入れる。
「じゃあ〜私、かすみんに不倫しちゃおうかしら〜!」
かすみちゃんのお母さんが今度は腕組みをしてきた。
「駄目ですってお母様!」
なるべく優しく手を振り払うとすぐ手を離してくれた。そしてリビングの方を見ると、さっきまでソファーで寝転がっていた私よりも背が高い男性がこちらをそろりと見ていて口を開いた。
「ねーちゃん。かすみさん?」
「そうだ! 我が弟よ!」
弟という言葉に引っかかりを覚えてもう一度男性の方を見る。一年程前に見たときは弟さんはすみれちゃんより小さかった気がする。
「えっ!?あの弟さん?見ない間に随分と背伸びたね!」
「あっ……はい」
辿々しい返事で今も昔も同じく大人しそうな性格だったのは変わりなかった。
「我が弟よ! 羨ましいだろぅ! こんな美人な彼女を持っている姉がいて!」
無い胸を張って、威張って言う。
「ふーん。ねーちゃんがそういうなら良いんじゃない……?」
首を傾げながら姉であるすみれちゃんに意味深な切り返しをしたので変な誤解をされた気がする。
「だから私は彼女でも無いって!」
「まぁ〜! かすみんちゃんノロケ話? それなら今日泊まっていって! 後で夕ご飯のときに聞いてあげるから! 先にすみれの部屋に荷物置いてきて用事を済ませたら?」
手を叩き会話を区切った上で、まるで私がすみれちゃんの彼女かのように扱ってきた。
「いやいや、何故そうなるんですか! って今日すみれちゃんの家に泊まる事になったんですか ! ? 」
「そうだねおかぁーさん! 行こっかかすみん! 」
すみれちゃんは私を引っ張って階段を登って行く。
「どこからどこまでが冗談なのよぉ〜?」
「うちの家こういうノリ大好きだから!」
階段を登りきり、彼女はすぐそこの扉を開けた。ここがすみれちゃんの部屋だ。中はマメに掃除が行き届いている様子で窓に掛かっていた薄いピンク色のカーテンが所々に置いてある動物の人形を引き立てて可愛らしい雰囲気がある。すみれちゃんの見た目通りの部屋だなと来る度に思っていた。
「私、今日すみれちゃんの家泊まる事お母様に連絡しなきゃ」
「ほいよー」
彼女は荷物を降ろして、制服のブレザーを脱ぎながら軽い返事をした。
そしてしばらくすみれちゃんが着替えているのでそっぽを向いてお母様からの返信を待つ時間が続いた。
「そういえば服どうする?」
すみれちゃんが着替え終わり、家に泊まる事についての話題になった。
「さっき執事が届けてくれるってお母様から連絡きたよ」
素っ気なく、さも当たり前かのような返事をしてしまった。
「そーいうとこだぞ、かすみーん! なんだぁーヒツジって!」
「ヒツジじゃなくて執事! もうおちょくらないでよ!」
自分の家の環境について普通とは違う感覚がして少し恥ずかしくなってしまった。
「いーなー。かすみんの家はヒツジもメイドもいるから」
舌足らずな甲高い雀のさえずりのような声で相変わらず執事の事をヒツジと言っている姿は何か周りに微笑ましい印象を与えてくる。
「いても少し窮屈になるだけで良い事ないよ」
「それは、持つもの持たざるものの気持ち分からずだよ」
またいつものよく分からないやつが始まった。
「なにそれ」
「すみれの今日の名言だよ!」
「あーはいはい迷う方ね」
「こらー子供扱いしてー! あーあ、かすみんと身体を入れ替えれたらなぁー!」
「入れ替わってどうするのよ?」
「さぁ……?」
流れる様な会話の中、何故すみれちゃんの家に来たのかを思い出し、思ったまま口に出す。
「そういえば、除霊」
「ん、あっそっか……ブフッ」
何かを思い出して吹き出して笑う。やはりこちらから言うのは間違いだった。
「ごめんごめん。"びっくりするほどユートピア"っていうのはね、裸になって自分のお尻を叩きながら白目向いて布団に飛び降りしながら『びっくりするほどユートピア』ってハイトーンボイスで叫ぶ除霊方法なんだよ」
…………
……
「……すみれちゃん、人に何かさせようとする時は自分もまたその覚悟があるって事だよね?その覚悟、かすみちゃんにも見せてもらいたいなぁ〜」
「ハイ、ソウデスネ、カスミサン」
すみれちゃんは機械音声のような声で返事をした。
「実演して♡」
「ごめんって!許してかすみん!でも本当に除霊効果あるらしいんだよ!かすみんも自分から行動したいっていってたじゃん!」
「……」
時が止まったかの様に空気が凍りつく。正確には私が場の空気を凍らせているのだろう。自然と口角が上がり、愉悦とはやはりこうでなくちゃと感じる。
「すっごい笑顔!意味分からないけど、アルカイックスマイル! 許してくれたんだね!」
今の言葉で何かの琴線に触れて、興が乗ったので私は笑顔でこう言う。
「はい、脱いで」
「びっくりするほどユートピア!?」
その後、かすみちゃんは全力でびっくりするほどユートピアをやった。途中にかすみちゃんの弟が部屋に入って来てそっとドアを閉じていった。多分彼にとって姉の裸は8年ぶりくらいで少し恥ずかしかったのだろう。気の毒に。この後の夕食での気まずさがそれを物語っていた。
これは秘密だが後日家でこっそりやってみたが案外楽しかったというのは置いておいて、結局万作君に対しては効果が無く、より一層心が締め付けられる様な気がしてきた。
◇◇◇◇◇◇
また、目が合った。普通の男の子には不相応なくらいな睫毛。それを持ってしても彼の顔は不思議な形で釣り合っているという評価ができた。例えるとするなら、彼は少女漫画に出てくる男の子のような顔だった。現実には不釣り合いな存在だった。
「おーい……」
彼の名前は万作君。早春に咲く花、マンサクと同じ名前。男の子に普通花の名前など似合う筈は無いと思っていた。しかし、彼はその花を体現した男の子だった。つまり、私達の常識では測れない"魔力"のような物を感じさせる摩訶不思議な存在だった。その"魔力"のような物を例えば天使から施された祝福として受け取ることができた。 だが、彼と目が合うとき私にとってそれは悪魔から与えられた呪詛になる。
「おーいかすみーん……」
最近更に症状が悪化してきた気がする。夜眠れない程の熱が身体に浴びてしまう。ずっとぼーっとしてしまって何にも集中出来ない。
「かすみんってば! おーい!」
目の前に掌が何回も上下に往復して後ろの景色がチラついて見える。気がつくと目の前にすみれちゃんがいた。
「どうしたの? すみれちゃん」
「『どうしたの?』じゃなーい! 私を無視するなー! かすみんを30秒間こちょこちょの刑に処す! 」
「えっちょっ」
すみれちゃんが座っている私の腰を掴んで指を器用に別々に動かすと、その動きに合わせて抵抗出来ない波のような感覚が襲ってくる。
「いやっ! んっ待ってぇ! ほんとぉ! 無理無理無理ぃ!」
それでもすみれちゃんはやめてくれないので何とか逃れようと身体をよじろうとするが、それも叶わずそのまま耐え難い感覚を受け続ける。
「ほんと、こちょこちょしてる時はクソ雑魚だよねーカスミンって。こちょこちょこちょこちょ!」
ニシシと白い歯を出して笑いながら擽り続けるすみれちゃん。
「ダメダメダメダメっ!あ"ー!限界っ!ギブギブギブギブギブぅ!」
「あと10秒〜」
「アハハっ!お願いっ!やめてっ!無視したこと謝るから!何でも言うこと聞くからぁっ!」
あまりの擽ったさに涙すら出てきた。
「だーめ! 一週間前のお返しっ!」
「もう駄目ぇ! 笑いがとまらないの! おかしくなっちゃうって!」
力なく椅子から転げ落ち倒れる。全身に力が入らなくて立つことすらできない。身体中から汗が出て、擽りの名残か身体中が痙攣する。
「あーあ、30秒かからずに落ちちゃったよ。もう仕方ないなぁ……そういえばさっき何でも言うこと聞くって言わなかった?」
その言葉に呼応するように肩がビクッと縦に揺らしてしまう。
「言ってないよ!」
「言ったよねぇ〜」
にちゃりと笑う彼女に危機感を感じてしまう。
「それじゃあ、びっくりするほどユートピアやる?」
先日のすみれちゃんのそれと一人でこっそりやった事が脳裏によぎり恥ずかしがりながら断固拒否する。
「絶対やらないっ!それ以外で!」
ここでいつものすみれちゃんなら、笑って流すか自分で墓穴を掘るのだが今日は違った。ふと彼女の眼差しが何かに気付いたかのように鋭い物になり低い声のトーンで話す。
「じゃあ放課後二人きりでお話しない?」
困惑した私は思わず気が抜かれた素っ頓狂な返事をする。
「えっそれくらいならいいけど」
「じゃっ、放課後準備室で」
「あっうん」
そのまま彼女は私の机を離れ、背を向けながら手を振る。いつもならその背中は小さくて可愛らしい物の筈なのにこの時だけ大きな背中に見えたのは幻なのだろうか。
学校のチャイムが鳴り先生が入ってきて授業が始まる。私は授業中でも上の空になってしまう。何故急にすみれちゃんの様子が変わったのか、万作君について、それから全く想像がつかない未来の自分について考えてしまう。
◇◇◇◇◇◇
夢想にふけり重い瞼を閉じると色々な物が絡まり合った大きな迷宮が現れる。複雑で歪んで見えて、それは人によって見え方変わってしまう物なのだろう。まるで、私達にとっての人生みたいな物であった。
私はそこに迷い込んだ美しい孔雀になって絡まり合った空間を煌びやかに飛ぶ。するとその輝きのお陰で、同じ場所を飛んでいたすぐ後ろに小鳥達が孔雀に付いてくる。中でも、一際目立って小さく可愛らしい雀が私の隣に寄り添って飛ぼうとしたり、孔雀をどこかへ案内してくれる。雀の連れて行ってくれる場所はどこも楽しくて、話してくれるお話はどれも周りにいた小鳥達よりも孔雀を楽しい気持ちにさせてくれた。
だが、その迷宮の中で孔雀は見つけてしまう。自分よりも美しい作り物のような白鳥を。孔雀はどうしても白鳥に惹きつけられてしまいを見つめる為に雀達を置いて白鳥の元へ一人で飛んで行ってしまう。
そして、その雀は二度と孔雀の隣に来なくなってしまう。雀はどんな気持ちで孔雀を楽しませて、どんな気持ちで孔雀から離れたのだろうか。
「ごめんなさい、雀さん」
◇◇◇◇◇◇◇
たまに朝起きると目から涙が流れている事がある。何故かは分からないけど、とても悲しくなってしまう。きっと悲しい夢でも見たのだろう。私はいつもそういう風に済ませていた。だけど今、私から垂れている雫の原因がよくわかった。私にも夢ときっと同じ事が起きる、その予感を既に確信したからこその涙だった。涙を咄嗟に拭き周りに悟らせないようにする。
後ろから背中をちょんちょんとシャーペンで突かれると少し擽ったくて体を反応させてしまった。後ろの席の子が居眠りを心配して突いてくれたようだ。
「珍しいねあのかすみんが居眠りなんて。何かあったの? 」
小声で聞いてくる。
「最近寝不足でね」
「ふーん、なんか、かすみんらしくないね」
つまらなそうにその子は言う。
「そうかな?」
「だって普段のかすみんなら些細な事でも悩まないんじゃない?」
彼女の言葉によって私の本質と言う名の的を射られた。
「だから、かすみんでも悩むような事があるんだなって。まぁ、すみれに相談されるまでそんな些細なこと気付かなかったけどね。きっとかすみんは友達にも恵まれたんだね」
やれやれという感じで彼女は言った。そして、すみれちゃんが私のことを本気で心配してくれていた事を知った。
「心配してくれてありがとう、大丈夫だから。私なら決着を付けられる。なんたって私は幸せだから」
「初めて見た……かすみんが自分の事を幸せって言っているの」
彼女が少し大きな声で呟いたせいで、授業で何かを解説していた先生が話していた事に気付きこちらを向く。
「そこっ! お喋りしない! たっく、かすみさんの邪魔しないの!」
「はーい、すいませーん」
彼女は棒読みで謝り、その場を流した後また私に笑いながら小声で話す。
「ていうか怒られたの私だけじゃん」
「悪いね」
「ほんと、それな!」
◇◇◇◇◇
窓を開けるとそよ風が吹き込み、私のハーフアップに仕上げた髪とロングスカートがたなびく。黒いカーテンもゆらゆらと揺れているので光が射し込み楽器達の金属部から反射してくる。
「急に呼んでごめんね、部活がない日に」
聞き慣れた可愛らしい甲高い声と小さな背格好。そして今はそれに哀しさが付随していた。
「どうせ家に帰ってもやる事殆ど無いから大丈夫よ」
「うん。知ってる」
今度は私のことを包み込むように言う。
「全部知ってるよ。だってかすみんは私にとって……」
彼女は言葉を詰まらせてしまう。私にも何故そうなってしまうのを理解していた。言ってしまえば終わってしまう。この一線を超えたら元に戻れなくなってしまう。でも……
「私にとって大好きで、憧れで……本当に、本当に大切で、かすみんの事を思うと胸が誰かにぎゅーっと掴まれてるみたいで切なくて、きっとこの気持ちは抑えなきゃいけないって分かってた。分かってたから辛かったの。貴女が同じ気持ちを違う人に抱いてた事を知った時が」
段々と普段の彼女のキャラクターがその甲高い声と共に崩壊していく。私が変わっていく姿を見ることが彼女にどれだけの苦痛を与えたのかひしひしと伝わってくる。
「うん……」
私は否定をせず、ただハッキリと肯定だけをする。
「今ならまだ、私にも分があると思ったから……言うね私の本音」
風が止み、たなびいていた髪がその動きを止めた。
「貴女が恋愛対象として好きです」
まっすぐと、申し訳なさそうに私の目を見つめる瞳。それは思わず直視できないくらい弱々しい物だったが、目を逸らさない。強く優しく受け止める。
受け止めた物は風が吹けば崩れてしまいそうなくらい繊細で、それでも身体が熱くなるような彼女の心、ずっと昔からそれは感じていた。私はずっとこの問題を先送りにして見ないフリをしてきた。だから、私は人生で初めてどの選択肢を選んでも正解じゃない問題を投げかけられた。
そして今、私は彼女の言葉によってこの選択肢を選ぶ勇気と権利を得てしまった事に気付いた。
「ごめんなさい」
瞳をぎゅっと捉えて、逸らさないように、逃げ出さないように言う。
「私はすみれちゃんの気持ちに応えることができません。私はすみれちゃんの事をきっと幸せにできないからです。このまま受け止めてもきっとすみれちゃんを傷つけてしまうから」
彼女の瞳から雫が零れ落ちるのが分かると感情が伝染するように私に伝わる。
「ありがとう、言葉にして伝えてくれて。すごく安心できたよ。私の気持ちを捨ててもらえて」
視界が水でぼやけて見える。あぁ、この気持ちはきっと。
「なんだ、かすみんも辛かったんだね。ありがとう、こんな気持ちをずっと夢みさせてくれて。こんな私とずっと一緒にいてくれて」
彼女は涙を擦りとり、笑顔を無理にでも作ろうとする。
「礼を言うのはこっちの方だよ。ありがとう、すみれちゃんがいつも隣に居てくれたから私は私でいられたんだよ。だからこれは私から言うべきじゃ無いかもしれないけど……」
「これからもずっと親友でいよ?」
涙を浮かべた上目づかいでこちらを見てくる。
「言われちゃった」
「それはこの話題を振った私の役目だから言わせないよ、それで答えは?」
「当たり前じゃない……隣に居て一番落ち着くのはすみれちゃんなんだから。私はすみれちゃんにずっと一番の親友として隣にいて欲しいの。それが私にとってもきっとすみれちゃんにとっても幸せだから」
私はすみれちゃんを抱擁する。温かい、これ以上強く抱きしめると崩れてしまいそうなくらいの華奢な身体が私の手から伝わってくる。
「ずるいよ……そんな台詞。振ったばっかの女の子にこんなことするなんて。やっぱりそれをして許されるかすみんは幸せ者だ」
流した雫が彼女の額にも落ちる。
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくね」
しばらく抱擁の時間が続いた。
そして思い出したようにすみれちゃんは声を出した。
「そういえば、万作くんにいつ告白するの?」
「今日だよ、部活終わったらここに来てって手紙で呼んだの」
包み隠さず、ストレートに言う。
「おぉ……大胆だこと。じゃあそろそろお暇した方がいいかな? 」
「えーっと振られたら慰めて欲しいからまだ学校に居て」
えへへと苦笑いしながら言う。
「なんちゅー自己中だよ。じゃ応援してるから、また連絡して」
「ありがとう」
すみれちゃんは優しく扉を開けて出て行った。
そして直ぐに彼がここに来た。
不思議な雰囲気を持つ彼はその長い睫毛を携えたぱっちりとした目で私に微笑む。胸が苦しくてたまらない。でも、これが恋というのなら私は彼の前に立たなければ。
「やぁ、かすみさん。君かい?ここへ呼んだのは」
「はい」
自分の心臓の音が相手にまで聞こえそうなほどバクバクと鼓動する。それは生まれて初めての気持ちだった。最初は私に初めて身に降りかかった不幸だと思った。だから、それを振りまくのをやめて欲しいと彼に直接いう為に呼んだつもりだった。
「この心臓の音が聞こえますか?こうして話すのは初めてですね。今私貴方の前に立っているんですよ」
「そうだね。君から僕に話しかけることなんて今迄無かった。」
だけどこれが恋だと知ったから、すみれちゃんとお話ししたから、彼に対してどういう気持ちだったかちゃんと理解することが出来た。そしてそれが不幸でなく、幸せの為の物だと。
「人を好きになるという事はどうにもなくなるという事なのですね」
息を飲み込み、続けていう。
「私は万作くんのことが好きになりました」
「僕を?」
物珍しそうな顔をして彼は私を見る。
「貴方から普通の人のそれとは違う、私を引き寄せるような力が見えたのです」
伝えるべき事は伝えた。あとは……
「私と付き合って頂けませんか?」
伝えたいことを伝え切った後のこの時間が止まったような感覚が苦しくて、でも愛おしくて。
彼は顎に手を付けて考えている。そして長い沈黙を破って口を開いた。
「僕は君を不幸にしてしまうよ?」
私がすみれちゃんの告白に返したと同じ言葉が返ってきた。分かっていた、人を受け入れる事も突き放される事も辛い事だって。だから私は……
「いいえ、幸せになってみせます」
彼の持っている全ての光を飲み込んでしまいそうな黒い瞳をぎゅっと見つめる。
「そうか、そうだね。はは、困ったなぁ……」
「私は駄目でしたか?」
私は決めたんだ。幸せは私に歩いてくるけど待つだけじゃない、こっちからも歩いて行こうって。これで彼の返事がNOであっても、私は今ここに立てている事が幸せだから、後悔は無い。
でも、やっぱり人に想いを伝える事はこれ程尊いものなんだ……ありがとうすみれちゃん。それに気づかせてくれて。
「いや違う、違うんだ。落ち度があるのは僕の方で、人を受け入れられるような度量が僕にあるのか、それが不安なんだ」
気付かせてくれたお陰で叶ったよ。私の幸せが。
「それなら、まずは友達から初めていきませんか?」
「こんな僕でいいなら是非」
やっぱり私は幸せ以外知る事が出来ないみたいだ。
◇◇◇◇◇◇
「あーあ、振られちゃったよ私……」
背丈の小さなある少女は一人呟く。
「あんなやつ何処が良いんだか……」
普段と違うドスの効いた声。それでも小さく、壊れそうな声。
「私は"霞"以外知らないのにな……」
それでも、彼女は最後まで虚勢を張っていた。彼女が得たのは"霞"という少女の隣にずっといる事の出来る小さな幸せ。でも、それは霞を掴んだような幸せだった。
幸せ以外知らない 華蘭蕉 @hanakanna27
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