第102話 目的
「メディアの出身は、レージュだ」
想像だにしなかった事実に、聞いていた少年たちの表情が固まった。
少しの沈黙が、部屋を支配する。
それを破ったのは、ジェネラルの問い掛けだった。
「……ちなみに、レージュ王国とエルザ王国の関係はどうなっているんですか?」
「そうだな……。50年前は敵国として戦争もあったらしいけど、和平締結後は友好国として関係を築いているな。……でも」
難しい顔をし、シンクが一瞬言葉を切る。
「……ここ数年、あの国の動きがおかしくってな。政治方針が変わったのか、兵力は増強されるし、レージュからエルザにやって来る人の数も増えたし。密かに、エルザ王国の侵略でも狙ってんじゃねえかなって、俺は思ってる」
「……侵略……ですか」
穏やかならぬ単語に、ジェネラルは思わずシンクの言葉を反芻した。
あくまでシンクの予想でしかないが、様々な国に密偵を放っているモジュール家の情報だ。火の無い所に煙は立たぬ、だろう。
ジェネラルが、レージュ王国の情報を大体掴めたと感じたのか、アクノリッジは話をメディアの件に戻した。
「そんなヤベえ国からやって来たのが、メディアだ。奴は確か、もっと若い時にエルザに留学してきたんだ。えらく優秀だったらしくてな、レージュには戻らず、そのままエルザ城で仕事に就いたのが始まりだな」
その後、優秀な彼を気に入った当時の大臣によって補佐に抜擢され、さらに約3年間、政治を学ぶ為に他国へ留学。
帰国後、自分を補佐にと指名した大臣が体調を理由に引退した為、彼の強い推薦により23歳という若さで、国を動かす4人の大臣の一人に選ばれた。
その2年後には、エルザ王国歴史上最年少で大臣長兼相談役に就任している。
非の打ちどころもない、輝かしい経歴だ。
しかしエルザでの経歴とは違い、レージュ王国でメディアがどのように暮らしていたのかは、全く分からないらしい。そこが何とも不気味だ。
裏で画策をしているメディアの出身国が、レージュ王国。
チャンクが裏で手を結んでいたと思われるのも、レージュ王国。
そこまで考えれば、嫌でもアクノリッジが意図している事が分かるだろう。
彼の言いたい事に気づき、シンクが慌てて反論した。
「あっ、兄い! メディアがレージュ出身だからって、今回の事件にレージュが関与してると考えるのは、ちょっと行き過ぎじゃ……」
「でもお前だってさっき、レージュ王国がエルザ王国の侵略を狙ってるって言ってただろ?」
「まっ、まあそうだけど! それはあくまで俺の考えであって、事実かどうかは分かんないだろ?」
「いや、俺はお前の政治的勘は当たるからな。あの国はぜってー何か企んでるぜ。それにチャンクの事件について、俺達のところまで情報が来てたか? あんなでかい事件、モジュール家の情報網に引っかからないわけがねえだろう?」
「そうだけどさ……」
アクノリッジの確信に近い予想を聞き、シンクの反論がだんだん小さいものになる。
チャンクの事件という言葉を聞き、そう言えばという感じで、ジェネラルが横から会話に入った。
「チャンクさんたちは確か、あの後エルザ城に連れていかれる予定でした。あれからかなり時間が経っているので、もう彼らの身柄はエルザ城に引き渡されていると思うのですが、シンクさんがエルザ城にいた時、何か情報はなかったのですか?」
シンクは黙って、首を横に振った。だが自身をフォローするように、
「でも時間が経っていたし、話題に上らなかったって可能性もあるしな!」
と付け加えた。
シンクはエルザ城に行くと、城内にいる者たちから、今広がっている噂や変わった事などを聞くようにしている。些細な事だが、そこから色々な動きを知る事が出来るからだ。
ジェネラルの言葉と弟の証言に、アクノリッジは意地悪くにやりと笑った。
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