第92話 城

 半月の旅路を経て。


「ここが、ディートの町か」


 目の前に広がる町並みを見、ジェネラルは小さく呟いた。


 ディート―エルザ王国の中心都市であり、この国を治めるエルザ王の住まう城がある。


 全ての国政はここで行われ、各町へ発信されているのだ。


 さすが中心都市なだけあり、今まで見てきた町の中で、群を抜いてトップの大きさだ。 

 道を挟み並ぶ建物は、皆大きく、所狭しと立ち並んでおり、道行く人々の数も他の町の比べると比ではない。 


 そして、今彼の前にはエルザ城がある。

 確かに以前ミディが語った通り、モジュール家の城ほど豪華ではない。


 だが白く統一されたそのデザインは、建物としての芸術性の高さを感じられる。

 やはり一番の違いは、建物から感じられる荘厳な雰囲気だろう。


 長い間、この国を治め守ってきただけあり、その積み重なってきた歴史が、肌で感じられる。


 門の前には、4人の衛兵が、不審者の侵入から城を守る為に、立ちはだかっていた。それ以外にも、兵士たちが入れ替わり立ち代り、城の周りを見回りながら歩き回っている。


 さすがに魔界の城のように、自由に出入り出来るなどという事はないだろう。

 しかし、ジェネラルには策があった。


“じゃあ早速行こうかな……”


 荷物をごそごそ漁ると、綺麗な封書を取り出し、ゆっくりと衛兵に近づいた。


「ん? 何だ、君は?」


 衛兵がジェネラルに気づき、声を掛けた。

 ジェネラルの容姿から、危険に思わなかったのだろう。声に厳しさはない。観光客が迷い込んだ程度にしか、思っていないに違いない。


 相手に警戒心を抱かせないジェネラルの姿は、こういうときに役に立つ。


 ジェネラルは、控えめな声の調子で、用件を伝えた。


「えっと…、あの…、ミディ王女に会いに来たんですけど……」


「はっ? 君が?」


「これ、見てください」


 そう言って差し出したのは、美しい装飾のされた1通の手紙だった。

 手紙の封に使われている蝋には、エルザ王家の紋章が押されており、表にも、小さく光を放つエルザ王家の紋章が入っていた。


 決して、人の手では作る事は出来ない、王女の魔法判。

 封筒の表に書かれた文字と判を見、衛兵は驚きに目を見開いた。


「これは…! ミディローズ杯の優勝証明書じゃないか! 君、あの大会で優勝したのか!?」


「あっ…、はい、まあ……」


 衛兵の問いに、何故か返事を濁らせるジェネラル。

 あの大会での出来事を思い出すたびに、複雑な気持ちが心を駆け巡る。


 驚きの表情を浮かべ、目の前にいる少年と手紙を見比べていて衛兵だったが、困ったように顔をしかめた。


「普通なら許可できるんだがな…、今は関係者以外立ち入り禁止になっているし…」


 悩む気持ちを口にしながら、衛兵が唸る。

 その時、


「どうしたんだ?」


 別の衛兵が、仲間の元にやってきた。事が解決しないのを、心配したらしい。

 事情を話し証明書を見せると、彼も唸り声を上げて腕を組んだ。


「今はちょっと城に入れないが、この証明書は特別だからな……。とりあえず、確認してくるからここで待っててくれ」


 上司の判断を仰ぎに、衛兵は城の中へと消えていった。

 ミディローズ杯での出来事などを、残った衛兵と話して待っていると、


「おーい! 入っていいぞ」


 城に入っていた衛兵が、叫びながら走ってくるのが見えた。

 どうやら許可が下りたらしい。


 走ってくる彼の後ろを、2人の侍女が静かに歩いてくるのが確認出来た。


「どうぞこちらへ」


 侍女の一人が、上品な笑みを浮かべ城内へ誘う。


 ジェネラルは衛兵たちに礼を言うと、侍女たちについて城の中に入っていった。


 期待と、そして何故か不安を感じながら。

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