第80話 心配
「さて…、説明してもらおうかな、ミディ…」
「ん? 何のことかしら?」
「今まで連絡1つも寄越さず、何をしていたのかって事だよ!!」
呑気に言葉を返すミディに、ジェネラルが半ギレ状態で言い返す。
しかし元凶は、大してジェネラルの半ギレにも動じず、
「ああ、そうだったわね」
と、先ほどと変わらない口調で呟いた。
ミディとジェネラルは今、持ち主のいなくなった屋敷の1室にいた。
チャンクやその他の護衛たちは、クルーシーがいた地下に閉じ込めてある。出入り口を完全に封鎖&ミディの魔法が施されてあるので、逃げ出すのは不可能だ。
今の所、ミディの魅了が効いているのか、出せと大騒ぎしている様子はない。
さすがに捕らえた者全員を、ミディたちだけで連れて行くのは大変だという事で、レジスタードに応援を要請している所なのだ。
今、村の者達がレジスタードに向かっているところだろう。
結局の所、チャンクが何故このようなことをしたのか、分かっていない。元々、マイナーの部類に入る家系のチャンクが、之ほどまで好き勝手出来た事に大きな謎が残った。
まあこの辺は、取調べが進んでいけば、分かって来る事だろう。
連絡がつき、レジスタードから応援が来るのを見届けるまで、二人はここに残る事にした。服も着替えた後は特にやる事もなく、この部屋で休息を取っている所、このような会話になったのである。
一つ息を吐くと、ミディはこれまでのいきさつを話し出した。
「あなたたちと別れて、予定通りに生贄となって川に入った後、私はチャンクの手下に川から引っ張り上げられたの。このまま奴隷としてここに入っても良かったのだけれど、それじゃ自由に動けないと思ってね、逃げ出したのよ」
ここまでは、ジェネラル得た情報どおりだ。
うんうんそれで? という感じで、少年が話を促す。
「で、逃げている途中にバックに出会ってね。きっと私を、チャンクの元に行くのが嫌で逃げ出したものと思ったんでしょうね。逃がす手伝いをしてくれるって、声を掛けてきたのよ」
バックは、川を調査していた調査団の一員だった。しかし彼が別の場所を調査中、仲間たちが人身売買の連中に連れていかれるのを目撃したそうだ。
捕まった仲間を救い出す為、そしてこの事件の真相を探る為、チャンクの屋敷に護衛として潜り込んだのだと言う。
しかしたった一人では、チャンクたちを役人につきだす為の決定的証拠や、捕まった仲間たちの足取りが掴めず、困っていたのだ。
「それで、バックさんにいきさつを話して、中に入る為の手助けを頼んだんだね? で、今に至ると…」
「そうそう、そういうこと」
ひらひらと手を振り、足を組みなおすミディ。
今までの経緯を語る口調は、超軽い。
約束の『や』の字も覚えていなさそうなミディの様子に、温厚なジェネラルの中で、何かが一気に噴出した。
「どれだけ心配したと思ってるんだよっ!!」
目の前のテーブルに、思いっきり手を叩きつけると、魔王は噴出した感情のままに言葉を吐き出した。
さすがのミディも、いつも温厚なジェネラルのキレた様子に、驚きを隠せないようだ。先ほどまで椅子にもたれ掛かっていた背中が、ピンッと力が入った状態で少し前に乗り出している。
「……心配してたの? 私を?」
驚きと不思議そうな気持ちが混じったような表情を浮かべ、ミディが尋ねた。
彼女の表情と口調から、自分を心配するなど意外だという心境が読み取れる。
「してたよ!! しないわけがないじゃないか!!」
間髪を入れず、ジェネラルは即答した。
そしてまだまだ叫び足りないとばかりに、言葉を続ける。
「約束したじゃないか!! 必ず連絡するって!! ずっと待ってたんだよ!? なのに全く連絡ないし、心配して後を追ったら、いきなりあんな状況で現れるし!!」
「あれは仕方がなかったのよ。外部と連絡を取る手段がなかったし、全く外に出る機会がなかったのよ? 出来るわけないでしょ」
「でも魔法を使えば、何とかなったんじゃないの!? 絶対に方法はあったよね!?」
何かと言い訳するミディを、一刀両断する勢いで言葉を叩きつける魔王。いつもはミディがミスしても、指摘して怒りを買うことを恐れ、何も言わないが、今日はさすがに容赦ない。
魔法という言葉に、ふっとミディの視線が他の方向に向けられた。それも、泳いでいる。
彼女の落ち着きのない様子を見、少年は理解してしまった。
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