第2話 条件
――自分よりも、強い男性であること。
これがミディが、世界中の求婚者たちに突きつけた、夫の条件であった。
そしてさらに、我こそはとやってきた求婚者たちを、自ら剣を持ちその実力を測っているのである。
だが隠れて出場した武術大会で優勝する程の強さを持つ彼女に勝てる者は、そう簡単に見つからないわけで。
今回の青年も、ミディに結婚を申し込み、ボコられ、そして女性の趣味を曲げられてしまった可哀相な被害者の一人であった。
しかし色々と悲惨な体験談が噂として流れているのにもかかわらず、毎日炊事がまかなえるぐらいの手紙が届き、花屋が開けそうなくらいの花が届き、それだけで市場が開けるぐらいの貢物が届く。
資源豊かなエルザ国の王女、そして美姫という事もあり、誰もが放っておけないからだろう。
まあ当たって砕けろ!な調子で彼女に挑み、砕け散った者たちは数知れずなわけだが……。
しかし結婚が嫌で、あのような条件を叩きつけているわけではないらしい。
ミディなりに理想や憧れは持っており、最近招待された結婚式では、うっとりと式を見守っていたりする。
結婚には人並みの憧れはあるものの、厄介な理想を掲げ、周りに迷惑を掛け捲っている王女。
――それがミディという女である。
ある日ミディは、とある小説読んだ。
それは魔王に攫われた王女様を勇者が救いに行き、最後には勇者と王女様が結ばれて、ハッピーエンドとなる、という超がつくほどお約束な恋愛小説だった。
それを読んで、ミディは思った。
“私の夫は、魔王を倒した勇者様しかいない!!”
この世界――プロトコルのお隣の世界には、魔界が存在している。
そして魔界には、魔界を治める者――魔王がいる、と言われている。
大昔は魔界との交流があり、時代によっては魔王がプロトコルを攻め入って来た歴史もある。
その時には、プロトコルでも勇者と呼ばれる英雄が現れ、魔族軍撃退の為に剣を振るったという記録が、ひっそりエルザ王家の歴史書に残されている。
しかし、今では魔界との行き来の方法は失われ、魔王も今は休業しているのか、
プロトコルにちょっかいを掛けてくる事はない。
こうして人々の中で、魔界という存在は薄れ、魔王や勇者は物語だけの存在へと
成り下がってしまった。
今では、一部の特殊な人間や王家の人間ぐらいしか、魔界が現実に存在している事は伝えられていない。
さらに言えば、過去には存在していた魔界が、今も存在しているかは不明である。
それが、プロトコルと魔界の関係であった。まあ、今の状況を一言で表すと、
『平和』
自分を攫う魔王がいないのに、魔王を倒す勇者など現れるわけがない。
ミディは思った。
“そうだわ! 向こうが動かないのなら、私から行けばいいのよ!”
突拍子のないことを考え付く、それがミディという女である。
そして数日後……。
「たっ、大変です!! ミディ様が、ミディ様が!!」
侍女が一枚の紙切れを持って、王の前にやってきた。
紙切れには……。
『魔王に会いに行きます。心配しないように』
行動も早い。
――それが、ミディという女である。
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