ついに見つけたぞ…両親の仇っ!

ちびまるフォイ

因縁の責任転嫁

「お前はいったい……!?」


「どうもはじめまして。いや、はじめましてではないかな。

 お前は私を知っているはずだ」


「なに……!? 電話番号で友達登録された奴とかか!?」


「そうではない。この剣に見覚えはないかな?」


「そ、それは死んだ兄の剣! どうしてお前が!?」


「ククク。その兄を殺したのはこの私なんだよ」


「き、貴様ァァーー!! 絶対に許さない!!」


男は慕っていた兄を殺された怒りに燃えた。


「それだけじゃない。お前の村を覚えているか?」


「忘れるものか! 村が燃えているあの光景を思い出すたびに

 毎晩怒りと悔しさで目が覚める!」


「フフフ。村を焼いたのも私なんだよ」


「許さん……絶対に許さん……!!」


男は平和だった村を焼き払い罪のない人々をも手をかけた相手に怒り狂った。


「さらに、お前の恋人を手に掛けたのも私だ」


「なんだって!? あれは事故だったのでは……!?」


「哀しみに暮れる貴様を見るのは痛快だったぞ」

「おのれぇぇーー!!」


男はますます闘志を燃やす。


「それじゃあ、俺の親友が死んだのは!?」

「そうとも私がやった」


「相棒のドラゴンが封印されたのは!?」

「私がやった。貴様が孤独にさいなまれるのを見たくてな」


「俺がどの宿屋に行っても断られるのは!?」

「それも私がやった。あらぬ噂を流してな」


「エスカレーターでみんな左側に固まるのは!?」

「私がやった。人間のDNAを私が操作したのだ」


すべてを知った男は今までの旅を思い出して剣を落としてしまった。


「なんてことだ……それじゃ俺の旅は……。

 すべてお前の手のひらの上で踊っていたに過ぎなかったのか……」


「そうだ。貴様は私と互角の戦いをするまでに誘導されたただの道化。

 喜びも哀しみもすべて私が仕組み貴様をここに導くための策だったのだ」


「そんな……」


「貴様が最初に母親に起こされて冒険の旅に出ることも、

 ちゃんと強くなれるように遭遇する魔物を調整したのも

 ダンジョンで迷わないように立て札を立てて誘導したのも私だ」


「くそぉーー!!」


男は仕組まれていた自分の人生を悔いた。


「それじゃあ……それじゃあ俺の人生はなんだったんだ!!」


「ここで朽ち果てるまでの、私の退屈しのぎに過ぎないんだよ」


「くそ……! くそくそくそ!!

 俺の父親が死んだのもお前の差し金だったなんて!!!」







「え?」

「ん?」





「父親が死んだの? なんで?」


「いやお前がやったんだろ」

「やってないよ」


「は?」

「え?」


「俺の父親が魔物に無残に殺されたじゃん。めちゃトラウマだよ。

 あれを機に俺が冒険に出ようって決意したわけ。それお前が仕組んだんでしょ?」


「いや知らないし……」


「待て待て待て! さっき言ったよね?!

 "すべて私が仕組んだ"って言ったじゃん!」


「すべてだと思ったんだもんっ!

 父親の事情とか知らないよ! なんでもかんでも私のせいにするなよ!」


「するよ!! ここまできてなんでここだけ別の刺客がいるんだよ!

 俺はもう実は中盤あたりで冒険に疲れ始めたわけ!

 さっさとお前を倒して普通の日常に戻りたいんだよ!

 この後に父親を殺した新たな敵を探して旅とか無理だよ! 残業旅だよ!!」


「知らないものは知らないんだもん!

 私は悪いやつかもしれないけど正直者ではあるよ!」


「うるせぇ、ここまで来たなら悪事のひとつやふたつお前のせいにしておけよ」


「悪い警官みたいなこと言い出した……」


「お前が全部悪いってことにすれば、すべて丸く収まるんだよ!」


「だって身に覚えないんだもんっ! 私でこの世の悪事すべてをまとめようとするな!」


「やかましい! お前を倒せばこの世界の森羅万象あらゆる悪は滅びるんだ!

 お前に覚えがなくってもとりあえずお前のせいにして世界は平和になるんだ!!」


「おおざっぱすぎる!」


「いくぞぉぉーーーー!!」


怒りの闘志とこれ以上冒険したくないという硬い意思で男は敵を滅ぼした。

空には虹がかかり、世界を覆っていた瘴気は消え、スポーツの延長で録画がズレることがなくなり世界は平和になった。



「おお、冒険者よ。話は聞き及んでおる。この世界を救ってくれたのだろう」


「ええ王様。同窓会であいつだけ招待されてないことを教えてやったら内側から爆裂して死にました」


「これまでの辛い旅をよくぞ乗り越えた。国を代表して感謝しよう」


「王様、実は気になることがあって。

 最後の戦いの時に奴はあらゆる悪事を崖の上で白状しました。

 ですが、ひとつだけ。父親の部分だけ身に覚えがないと言っていたのです」


「なんだと。それはおかしい。そなたの父親はたしかに殺されたはずだ」


「そうですよね」


王様はふむとあごひげをなでて考えた。



「まあ、次は悪事チェックリストをちゃんと渡して抜けがないように指示しておくよ」

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