立つ

@77asita

第1話

私の中には龍が住んでます。それは高い龍です。白いの鱗を身にまとい、なんとも言えない声で鳴きます。鈴のおとのような。猫のわななきのような。

とても美しい龍です。

昔、私がまだ若い頃に、蛇に噛まれたことがありました。ビックリして、血の落ちる左手を支えながら、蛇と目を合わせていました。蛇はなんとも哀しい眼をしていました。噛まれたのは、私なのに。

そのまま蛇はズルズルと私の側を離れてゆきました。

私は寂しい時、目をつむり蛇の事を考えました。ぐーっと瞼の内側を見ると、なんとなくあの蛇がにょろにょろといます。私は嬉しいのと、会いたさで思い切り叫びます。名前も知らないけど、「あなた」と。

蛇は全く無関心です。

噛まれていい。「噛みに来てください!」と叫んでも振り返らずにょろりーにょろりーと瞼の裏を這った後、いなくなるのです。

それでも会えないよりはいい。

目をいくらつむって薄い闇の中で待っていても来ない日は来てくれませんから。

若い頃はそのような感じでした。私も土地の者でなし、村の中では浮いていたのです。村人と髪の毛も目も色が違いました。言葉はどうにかしゃべれましたが、言葉がしゃべれるって本当に窮屈でした。可愛げもなかったのでしょう。いつも一人でしたから、蛇にかまってもらえたのが嬉しかった。

そのうちに龍が頭を這い出したのです。噛んだ蛇は緑色、龍は白かったですから、最初はあの日の蛇とは気付かなかった。ただ、龍にしては、どうもにょろりとして、蛇みたいだなとは思ってました。

ところで、龍の好物はなにかと思いますか?心なのです。龍は私の心を吸いながらだんだんに大きく力強く鱗もしっかりしてきまして、ある時飛び立ちました。私の中で。その一瞬目と眼が合いました。あの蛇でした。緑色の鱗はどこに落としたの?私は泣きながら泳ぐ龍に問いかけましたが、鈴のおとのような猫のわななきのような声がスーっと響いただけでした。

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