花夜の薬売り(フルール)

双月朋夜

プロローグ

 それは、春のある一夜のことであった。


 たった一夜にして、一つの小さな村が壊滅した。

 今日の夕刻までは、村人たちは平和な生活を過ごしていた。

 だが、今となっては村人のほとんどが、理性を失ったバケモノに姿を変えていた。

 夜の静寂を破るような、獣の咆哮。

 バケモノが、バケモノ同士を捕食し合う異様な光景が繰り広げられている。

 大口を開き、喉元に噛みつき、肉を喰らい、咀嚼し、雄叫びをあげていた。


 そんな、バケモノの巣窟を変わってしまった村で、一人の影があった。

 その人影は、この惨状を見て、満足そうに笑みを浮かべていた。

 そして踵を返し、村の奥に潜む森へと足を踏み入れていった。


 道端には、タンポポが花を咲かせている。

 だが、このタンポポたちは春の息吹を感じて、花を咲かせたのではない。

 冬の寒さにも耐え続けたどころか――

 わたぼうしと化して種を飛ばし、枯れることもなかったのだ。

 そんなタンポポたちが彼此3年以上、この村の地に根付くことを許されていた。


 全ての過ちは、そこから始まっていた。

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