STORIA 41
「黎。終わったら、俺の部屋に来いよ」
彼に呼ばれ、自分の個室を後にする前に、僕は窓際にある寝台を眺めながら少々考え込んでいた。
敷き布団や掛け布団などはなく、固い寝台にはマットレスが置かれているだけだ。
勿論、シーツなども添えられてはいない。
都の部屋へ足を運ぶと、彼は荷解きを始めたばかりらしく、段ボールの粘着テープは剥がされ、鞄の類からも一部の物が取り出されていた。
何かを、探しているみたいだ。
「黎。冬靴って、持ってないだろ? 今日、履いてたようなデザイン重視の物じゃ、冬を過ごせないぞ。俺、二つ持参しているから、一つは黎にやるよ」
「いいのか。都」
彼の言う様に、僕は釧路町へ着くまでの間、東京で履き慣れていた靴で歩を進めていた。
自分では靴底の厚い物を選んだつもりでいたけれど、都には全てがお見通しみたいだ。
手にした靴の裏側を見てみると、滑り止め剤の入ったゴム底になっている。
靴の中も、とても暖かそうだ。
「いいだろ、それ。ヤスリの役目も果たしてくれるから、滑りにくくなっているんだ。本当は自分用にと想ってオークションで手頃な値で購入したんだけど、もう一つ欲しいのを見つけてさ。ちなみに俺の靴には、底面にピンと金具が付いてる。溝のある靴も選択肢に入れてたけど、雪が詰まると逆に滑りやすくなるみたいなんだ」
都心に比べると積雪量の多い釧路でも、冬はまだ始まったばかりだという。
彼の助言通りに確りと備えておかなければ、積雪の増す一月、二月を乗り越えられないだろう。
僕は、彼の親切心に甘えて頑丈な作りの冬靴を受け取った。
都は屈託のない、笑顔を見せる。
僕に見せたい物があると誇らしげに言う彼は、段ボールの中から対象の品を取り出した。
精密機器として丁寧に梱包された物は、彼がこの家に先送りしていたカメラ機材だ。
「三脚のマンフロット055と、雲台のハスキー3Dヘッド。で、こいつがキャノンのデジタル一眼レフカメラ」
重厚感のある機材に、僕は身を乗り出して覗き込む。
まるで、プロの写真家達が使っているような本格的な物だ。
「都って、こんな物を使って撮影もしてたんだな。知らなかったよ」
僕が言うと、彼は首を横に振って否定をする。
「雲台と三脚を使うのは、今回が初めてだよ。一眼レフを、手にしたことはあるけど。正しい使い方は、これから学んでいくつもり」
「そうなのか。いい絵を撮って、早く自慢してくれよ。それにしても、都は本当に荷物が多いな」
彼が手荷物として運び入れた物や、宅配で先に届いていた分を合わせると、東京の自宅にあった物を半分以上は持ち込んでいるのではないだろうかと想わせる量だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。