STORIA 42
釧路へ移り住むことを望んでいるような、都の口からは決して聞くことの出来ない何かが隠れている気もしていた。
僕は彼から手助けを求められた、赤いキャリーケースと大型の段ボールの中身の整理をしていた。
最大サイズのキャリーには、沢山の衣類や小物が詰め込まれている。
衣服の全てを吊すと、九割の空きが残った僕のクローゼットに対して、都の衣装棚はすぐに埋まってしまった。
ハンガーに吊した物だけでも、軽く三十着くらいはあるだろう。
都は、机周りを整頓している。
筆記具などに紛れて見える、書籍のような厚い背表紙を持つ物に、僕は想わず口を開く。
「小説、読んだりするんだ。都」
「いや。これは、本じゃないよ。撮った写真を保存するための、簡易アルバム。見るか?」
彼は、手にしていたアルバムを此方に放った。
腕を伸ばし、僕は慌てて受け止める。
厚みを感じた冊子は実際に触れてみると、想像よりも重みのない物だった。
見開くと、写真は数枚程度しか収められていない。
残りは、未使用のままだ。
「今までは、撮り溜めた物はパソコンや携帯に保存していたんだけど、これからは現像もして残していきたいなと想っているんだ。その方が、カメラマンを目指してるって感じがするだろ」
いつも想う。
撮影にまつわる話をしている時の都の表情は、限りのない喜びに満ちていると。
達成感を得たプロより、初歩から夢見る彼だからこその感情なのかも知れない。
カメラ機材一式を目にしたことで気持ちが高揚しているのか、明日の朝、一番に湿原展望台へ行こうと都が誘う。
断る理由などもなく承諾すると、彼は最も大きな包みから寝具を取り出した。
「黎。布団はどうするんだ。俺は自分の物が落ち着くから、先に送ってたんだけど。黎が構わないなら、秀蔵ちゃんが息子達の使用していた寝具を貸し出すってさ」
「さすがに、布団は持参していないな。使い古しでも、全然平気だよ。世話になってばかりいて、申し訳ないけど」
僕は、八尋さんの好意に素直に甘えることにした。
何だか、人の力に頼ってばかりだ。
都を通して巡り逢う人達の優しさも、稀でしかない有り難いことなのだろう。
所持品の多い都は数時間では片付かず、切りのいいところで翌日に繰り越すことにした。
都と僕の個室は横並びに位置していても、直に繋がっているわけではないようだ。
部屋同士の間には、一つの収納室が入るくらいの幅があるようにも見える。
けれど、扉がある通路側からは、目にすることが出来ずにいた。
「黎。今夜の夕食は、コンビニ飯でもいいか? 秀蔵ちゃん、疲れてるみたいなんだ。車での迎えに加えて、俺が送った荷物も、三階まで運び入れるのを手伝ってくれていたからさ」
「ああ。随分と小言を言われていたみたいだな。廊下から、聞こえてた」
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