本庄と代筆

 基本的にうちの大学に出席点という優しいシステムはないが、出席だけは取りに来る。2/3以上の講義で出席していないと本試験を受験する権利がないのだ。

 権利て。出席点くれや(教養とかは割とくれる)。


 まあ実際は足りなくても黙認してくれる教員が多いのだが、サイコパスヒャッハー教員に捕まると、そこを突かれて一発留年にされることもままあるので注意が必要である。


 誰だって授業には出たくない。そこで考え出されるのが出席の代筆だ。つまり、出席カードを二枚取って二人分書いて提出して出席したことにしてもらうのである。

 え、学生証をピッとして出席を取る? うちの大学にそんなハイテクな機械はない。学生に福利厚生などないのだ。すべての出席は手書きである。


 本庄は朝起きるのに割と強いので、代筆はしてもらう側ではなくする側である。一限から行って授業中はおやすみタイムとなるわけだが。

 代筆はバレると面倒くさいこと、つまり停学とか単位剥奪になるので、する側にも割とリスクがある。じゃあ何で代筆をするかというと、もちろん報酬が与えられるからだ。


 自分の場合は「肉ポイント」である。肉ポイントが10ポイント溜まると、近所の高級ハンバーグ店で名物ハンバーグを奢ってもらう権利が与えられる。

 肉ポイントじゃないにせよ、金や何やらで代筆を売り買いする学生は結構多い。


 だがもちろん、先生も代筆の対策を取ってくる。秘書さんを呼んできて、一人一人に一枚ずつ手渡しするパターンが最も多い。秘書さんがいない研究室なら、下っ端の助教が配り歩くパターンが多い。

 この場合は二枚とって提出というのが効かないので代筆を撲滅することができる。


 と思うじゃろ? 実はそうではないんじゃよ。(名探偵コナン39巻の阿笠博士のセリフより)


 今度は出席だけ取ったら出ていくとか、逆に出席を取る時間になるまで来ないという学生が現れるからだ。


 しかし教授は教授で東大京大出の頭の切れる強者揃いなのでそれにも対抗してくる。出席カードに長文の感想を書かせたり問題を解かせたりすると、一人で二人分の出席を錬成するのが非常に難しくなってくるという手法を使う人が多い。


 中には筆跡鑑定をやってくる猛者もいる。大学教員じゃなくて科捜研とか行った方が出世できると思うよ。


 しかし、授業中をおやすみタイムにしている本庄は、出席カードに問題を与えられても解けない。ちゃんと出席(ちゃんとなのか?)しているにもかかわらず、出席していないことになってしまう。

 大概の場合は、答えがレジュメの中に載っているので、必死こいてレジュメを見返して解答を書く。あるいは隣の人の答えを丸写しするか。


 問題は、授業中に先生が言葉だけで説明した内容が答えになる場合である。我々はアホの学生なので、たとえ授業を聞いていても、授業中に一度聞いただけでは問題など解けない。隣の人もわからないので答えが出ない。これが一番困る。


 あと写せなくて困るのは感想を書け系の授業ね。何度も授業を受けていると感想がネタ切れを起こして何を書けばいいのかわからなくなってくる。

 で、本庄は一度、軽い気持ちで「生きるのがつらい」と書いたのだ。


 本庄は(生きているだけで試験が近づいてくるので)生きているのがつらいと書いたのだが、その先生は(悩みがあるため)生きるのがつらいと解釈してしまったらしい。後から考えたらそりゃそうである。


 その結果、研究室のボス、エアリズムおじさんに呼び出されて、出席カードにとんでもないことを書いたのが研究室中にバレましたとさ。エアリズム准教授には肉を奢ってもらえたので良かったけど。

 あの時はヒヤッとしたなぁ。みんなちゃんと授業聞こうね。

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