本庄と死んでほしい教授④(生物勢向け)

 世間はクリスマスらしいが、本庄にそんなことは関係ない。今は合宿である。ブラック運動部は、冬休みに入ったとあらば合宿を敢行するのだ。こんなブラック見たことねぇ。


 でも、そんなブラック部活も、昨日はクリスマス会だった。

「はい、今日のミーティングでーす。明日のメニューは……(なんやかんや)……。今日の動画なんですけど……(なんやかんや)……。で、クリスマス会しまーす」シャンシャンシャンシャン(※BGM)

 ミーティングの後にやって盛り上がれるわけないやん。盛り上がったけど。娯楽もないし。

 

 で、本庄にクリスマスは存在しないので、死んでほしい教授の話の続きである。

 割と専門用語がバンバン出てくる感じの愚痴を別でまとめてみたのだが、一応説明はするもののわかりにくくなるので、ご注意を。


 学生実験で細胞培養をやったのだが、例のクソ教授がめちゃくちゃうるさい。

「なんでピペッター(電動ピペッター。10mL程度を吸い上げることができる)を横に向ける? 中の液体がピペッターに流れるだろ!」(※向けてない)

「液体を出すときにピペッターを振るな!!」(※振ってない)

「はい、今触ったね? はい、コンタミ(contamination、培養した細胞に細菌などが混ざってしまうこと)した!! もうこのシャーレに細胞は生えません!!」(※結局生えた)

「瓶は常に斜めに!! 空気中の細菌が落ちてくるから!!」

「蓋を机に置くな!!」


 いや、そもそも何も言われなくても細胞培養はそれなりにできるわ(自分の研究室でやる)。電動ピペッターはそれなりに使ったことがあるので、横に向けるわけもないし振るわけもない。見間違いはやめてくれ。視力に自信がないのなら眼鏡をかけろ。


「廃液入れを何故ここに置く? 邪魔になるだろ!」

 廃液入れの置き場所くらい好きに決めさせてくれ~。


 初心者は〇〇しやすいからその予防に〇〇させる、というのはわかる。けど、シャーレや廃液入れの置き場所などは、実験者ごとの定位置があったりするので、それを変えさせたらむしろ失敗の元である。

 しかも、それをやらないと怒ってくるし、常識がないなどと罵ってくる。


 だが、最低限のことをやっていれば細胞は増える。意外としぶといのだ(ていうか、基本的にしぶとい細胞を使うので)。


 勿論、自分も多少のローカルルールには合わせるが、あまりにもローカルルールの押し付けがすごいので、その研究室の友達に愚痴った。

「なんで〇〇研究室ってローカルルール多いん?」

「いや、ローカルルールやなくて教授のマイルールやからな」

 なぜかしっかり釘を刺された。


「だって俺も同類って思われたくないやん。俺はやらんもん」

「え、やらんの?」

「教授だけや。俺もやらん、〇〇(同級生)もやらん、助教の先生もやらん」


 この教授のローカルルールは、なにも厳しいものだけではない。

 先刻、「最低限のことをやれば細胞は増える」と書いたが、最低限のことすらやっていなかったりする。


 あまりにも不思議だったので尋ねた。

「なんで、培養室に道具を持ち込む前に、器具をエタノール消毒しないの?」

 そう、それは少なくとも我が研究室では常識である。コンタミを防止するためにあれやこれやに厳しいクソ教授なら、絶対にやるべきことだ。

 シャーレの蓋を机に置いただけでキレるならば、最低限、机を殺菌消毒するべきなのである。それもやらない。


 喩えるなら、クソ古いボロボロのパソコンに最新のソフトをインストールし、動作が遅いから常にアップデートしろとうるさく言われているようなものだ。何かが根本的に違う。


 うちの研究室の場合だと、瓶の蓋も机上に置くし、瓶の口を毎度毎度火炎滅菌することもないし、開いた瓶の口から細菌が入らないようにずっと傾けるルールはないが、培養室に持ち込むものは100%エタノールをかけて殺菌するし、実験前と実験後は机をエタノールで拭く。うちの大学だと、どの研究室もだいたいそうだ。


 友達は答える前ににやりと笑った。

「それはな、エタノールをケチってるからや」

 納得がいった。そういえば、この学生実験、何でもかんでもケチられる。石鹸や筆記用具、スライドガラス、果ては1枚のビニール袋、1枚のティッシュまで、できるものは何でも再利用させるし、失敗したから新しいのをくれと言ったら嫌な顔をする。


 なぜ学生実験で消耗品をケチるか。

「授業で必須の学生実験のための予算は大学から出てるやん。でもそれが余ったら自分たちの研究費になるんや」 


 答えはあまりにも明確だ。

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