STORIA 35
二人はゆっくりと歩を進めた。
「空が綺麗だな。不思議だよなあ……。何処も全て繋がっている筈なのに、日本とはまた一味違って新鮮な物に見えるなんてさ」
「うん。あの人にも見せてあげたかったな……」
蘭は少し詰まらなそうに呟きを洩らす。
「あの人……って、蘭と付き合っている彼氏の事か?」
「うん……」
彼女は急に沈んだ表情で答えた。
「もしかして連絡取ってないのか? 確か佐倉君って言ったっけ」
「うん……。あたしね、今はケジメ付けたいんだ。自分がこんなに夢中になれる物を見付けて、それを必ず叶えたくて最後まで頑張り通したいの。だから自分に自信を付ける為にも目的を達成するまでは彼に連絡を取らないって決めたんだ。今は辛いけれど……。あの人の声を聞けばきっと甘えてしまう。今以上に逢いたくなる。甘えを表に出す事はなくても愛しさで想いが溢れてしまいそうで怖いから……」
「そうか……。でもその方がいいかもな。それにもうそんな想いを抱く必要はないんだよ、蘭」
「どういう意味……?」
蘭は兄の意味深な言葉に不安を感じた。
「あ、お兄ちゃん、今夜は何処に泊まるの? 決まってないなら私のホームステイ先に来ない? 皆、気さくな人ばかりで喜んで歓迎してくれると想うの」
「そうか、じゃあ御言葉に甘えて。それから蘭、後で話があるんだけどいいかな?」
「うん……?」
連は優しいホストマザーや、その家族に迎えられ楽しい夕食の一時を過ごす。
心地の良い静寂が街全体を包む頃、彼は蘭の部屋へと向かう。
「お兄ちゃん、そう言えば話って……」
「蘭、言いにくい話なんだけど、もう単刀直入に言わせて貰うよ。佐倉君と付き合うのは止めるんだ。俺がアメリカまで態々訪ねて来たのは、この事を直に伝えたかったからなんだ」
「やだ……、お兄ちゃん。何で急にそんな事言うの? どうして……」
「どうしてもだ」
連は強い視線で妹を責めた。
「蘭、何も知らないのか」
「何も……って?」
彼が溜め息を吐く。
「あの子には他にも女の子が居るんだ。それも一人じゃない。彼女等と既に関わりも持っている。蘭は遊ばれているだけなんだよ。だからもう佐倉君とは、これを機会に逢うのは止めるんだ」
言い辛かった一言を蘭に浴びせた。
「嘘……、そんなの……」
彼女の両手が小さく震え始める。
「嘘じゃないんだ、蘭。だから頼む、彼とはこれっきりにして欲しい。連絡も暫く取ってないんだろう? 丁度好いじゃないか。距離と気持ちとが離れてしまえば未練なんて物にも苦しまずに済む。連絡も一切駄目だ。分かるだろ? 兄としては心配で堪らないんだよ」
「……もしその話が本当だとしても、どうしてお兄ちゃんにそこまで言う権利があるの? 私とあの人の事、干渉したりしないで……!」
「蘭……!」
彼女は泣き出しそうな顔で部屋を飛び出した。
皆が寝静まると蘭は再び室内に戻り、一人悲しみを耐え忍んでいた。
兄の口先だけでは真実か嘘かも分からない自分の恋人への不安と嘆き。
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