ステラレイド異聞 青月の将軍と鳥籠の乙女
冬村蜜柑
ステラレイド再演
彼らの終演 ステラレイド
優しく輝いていた満月も、今やか細い光を投げかけるだけであった。
星無き漆黒の空に、細くなりゆく月がひとつきり。
どこまでも続くような、広大なる草原。
そこに布陣するのは数え切れぬほどの兵士たち。揃いの紺碧の鎧を纏い、後方の者たちは月を象った紋が染め抜かれた旗を掲げている。
その兵士たちを指揮するように、漆黒の仮面の騎士が先頭に立つ。
ふわりと風になびくのは、深い青のマントと漆黒の戦装束の袖。手にした刀が、彼の決意を示すように月の光を美しく照り返す。
彼の甲冑と戦装束、それに刀は、基幹世界においては和風、和服と言われるようなそれに近い。
そんな彼に寄り添う巫女は、うって変わって目のさめるような赤と白の装い。いかにも柔らかそうな白い肢体を包む白い水干、翻る緋袴。そして――愛らしいつくりの顔右半分を覆い隠す布。
『青月の将軍』……そして彼に寄り添うこの巫女こそが、この
次で、最後の打ち合いになるだろう。
刻限はとうに過ぎ、もうこの積層都市は、ゆるやかに崩壊し始めている。
――この舞台装置の歯車が、ぎゅいりぃっと鳴る。噛み合う。そして、動き出す。
それは緊張のあまり聞こえた幻聴かも知れない。だが、星の騎士たちは『確かにそれを聞いた』のだ。
常人にはありえぬ、まさに星の騎士たちのみになしうる速度でもって青月の将軍が疾駆する。
先陣を切った彼に続き、騎兵隊は槍を構えての突撃を行う。
嘶きと、雄叫びと、土煙と、迫りくる穂先。
その先にいるのは――わずか四名の星の騎士。
そんな彼らに教え諭すように、青月の将軍はすれ違いざまに囁く。
「忘れるな、我々は一人ではない、同じ思いを共にする相手がいるのだ」
……星の騎士達は、良く耐えていた。
だが、その魂に刻まれし強き
いや……違う。
「わかっている、これは一人の戦いじゃあないって」
「……これは『私達』の『私達みんな』の戦いですもの」
「赤オダマキの……ちゃんと準備はできているな?」
「……あぁ。ちゃんと特大のを見舞ってくる。頼む」
星の騎士達の
それは、堕ちたる騎士となった青月の将軍にはあまりに眩しい輝きで。
「……ならば、示してみよ!!」
その声に応じるかのように、赤いステラドレスを纏った騎士が大剣を振るう。
あぁ、どうか。
願わくば、最後までこの戦いを自分自身の意思で。
戦場を――舞台を照らす月が、またわずかに細く欠けゆく。
そのわずかな意思でもって、青月の将軍は騎士としての力を発動する。
ひらり、ゆらり、青い花びらが舞う。
外壁に愛らしい青コスモスの咲くそれは、まさしく堅固なる砦。
「守るべきものを守るのです……『
コスモスの砦が、将軍を守護する。
それは、赤オダマキの騎士の攻撃を弾く!
「なかなかの腕前、そして意思です。ですが――それ止まりですね」
赤い刃は、青月の将軍に届きはした。だが、致命的な傷とはならない。足りない。足りない。圧倒的に足りない。
「……そうかい」
くるり、赤い刃がひらめき、そして…………すさまじい速度で突っ込んでくる!!
その速さは全速力と呼ぶにふさわしい。己の体にかかる負担のことなど顧みぬ、貫き通し、倒す。そんな一撃を見舞うため、オダマキの剣は今この場に存在していた。
「『オダマキの花言葉は』っっっ……!!」
それは己への、そしてともに戦う仲間への問いかけ。
赤い刃を支えるのは、白と黄、それに黒の花びら。彼らは一人ではない。
「「「断固として勝つッ!!」」」
「あぁ、そのとおり!!」
仲間からの支援を受け、意志を載せ、赤い刃は――騎士を貫き通す。
溢れ出る血の代わりに舞うのは、青いコスモスの花びらと……どす黒い光の粒子。
……ぐらり、と……さしもの青月の将軍も、倒れ伏そうとしていた。
そんな彼を今にも泣きそうな顔で必死に支えようとするのは――巫女装束の少女。
……あぁ、どうか泣かないで。
……私のために泣かないで。
……私の、大切な、妹。
仰ぎ見る空は、漆黒の闇が晴れ、その合間に満点の星空。
……それに、美しく優しい光を投げかける見事な満月が浮かんでいた。
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