いろづけしっぱい
「……また、これは困りましたね」
「え、今度は何がモチーフ? 男爵? 伯爵?」
「いや、格好以前に、耳が……」
数秒の後、煙から現れたのは、猫耳の貴族。
その長髪はと物腰穏やかな口調はそのままに、先ほどとの違和感は無い。
たしかに、その辺についての違和感は無い、のだが。
「和装からの早着替え……」
「着替えなのか? これ……」
180度違うその雰囲気には、ふたりもさすがに動揺を隠せない。
「あら、ここで合ってるのかしら?」
そして、猫耳貴族を合わせてさらなる混乱の坩堝。
今まででは聞いたことの無い女性の声。
少し闇を纏ったような、それでいて落ち着き払った声色。
老獪で在りながら、しかし若さを伴ったような声質。
振り向けばそこには――――。
「これはまた珍しいパターンで……」
「やばい。猫耳男爵よりモチーフがわかんないや」
「ジャンル、何」
「私にも判らないわよ。というか、あなた方もどういうコンセプトなのよ?」
――――道化師の洋装に身を包んだ女剣闘士が立っていた。
「ああ、もう全然わかんねえ。何だ、何なんだこれは」
赤髪の青年は頭を抱えた。
一瞬にして衣装が替わっていくのを目の当たりにしたことに、ではない。
この脈絡の無い、全く見えてこない面子にであった。
「ここまで来ると、むしろ何で君だけ元に戻ったままなのさ、って話じゃない?」
「そうね。最初は私も自分の格好が理解できなかったけど、今こうして立っていると、貴方の方が浮いて見えるわね」
「いやもう、全くもってその通りで……」
「……姿形まで変わったのも君だけだけどね」
どういうことか、と説明を求めてきた道化の剣闘士に、先ほどの珍事を改めて解説する。
途中、思いっきり怪訝な顔をされたが、それはここに居る者たちの責任では無い。
それに、残念なことに、それはこの空間で起きた紛れもない事実だった。
「何なんだよ、ったく……」
舌打ちをしそうになる感情を抑えつける。
「そういえば、貴女は何か判ってることはないの?」
「そうだそうだ。今のところは最後に来たんだし。何でも良いんだ、詳しく知ってることがあれば教えて欲しいんだけど」
猫耳男爵も、その表情のみで同じ意見であることを告げている。
しかし、その視線の先の彼女は冴えない声で告げる。
「ごめんなさいね。ただ、たぶん貴方たちもそうだと思うのだけど、うっすらとは理解できていることはあるわ」
「やはり、ですか」
「あら? ということは……」
「ああ、そうだ。正解だ」
赤髪の青年が言葉尻を奪い取る。
「あと、ちょくちょく服装が変わる理由と、この場所が全く変わらない理由もね」
今度は魔法使いの少女が言葉を継いだ。
「『転生モノ』にしては統一感が無さ過ぎですし」
「かといって、ふつうの世界に『コレ』が入ってきてても違和感ありすぎじゃない?」
「『コイツ』、俺たちを一体どうしたいんだよ」
「っていうか、そもそも『何』にしたいのよ」
しかし、その疑問に返ってきたものは――――。
「またかよ!」
「またですか……」
「またなの……?」
「……はぁ」
最早見慣れた、白い煙だった。
そして煙が晴れると――
「嘘だろ、おい……」
「えー……」
「なるほど? これを貴方たちは着ていたってことなのね」
「ええ、そうですね。……そうか、貴女は最初からアレだったのですか」
――最初に着ていた、「高校の制服っぽいブレザー」に戻っていた。
「……結局、ご破算ってことなのかしら」
「そうみたいだな……。俺たち4人が、この4人であることだけはもう確定みたいだが」
「それ以外は宙ぶらりん、ってこと? もー……」
「根本的な話だけど、『此処』が真っ白ってことは、舞台設定とかさえも思いついていないってことでしょうし」
「新しいモノを書くにしても、もう少し細かく詰めてから考えて欲しいものですね……」
4人のため息は、何にも抗えずに真っ白な空間へと溶けていった。
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