おかしないろどり

「……はっ!?」


「あ、気がついたみたい! 大丈夫!?」「大丈夫か!?」


 再び意識が帰って来たときには彼は白い地面に横たわっていて、傍らには先ほどのふたりが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「は……、え?」


 わずかに霞む目をゴシゴシと擦り、何とか覚醒した彼の目には。


「お前ら、何でそんな格好……」


 長髪の青年はさながら陰陽師。


 金髪の少女は漆黒の魔法使い。


 そのどちらも典型的なデザインで、見ただけでそれであると認識ができる装いだった。


 彼の驚きに満ちた声と眼差しにふたりは顔を見合わせるが、再び彼に向き直ったときにはそれにも増した驚愕っぷりだった。


「いや、むしろそれは僕らの言葉ですよ……」

「そうだよ! だっていきなりロボットになるんだもん!!」


「は?」




 そして、静寂。




「は!? え! どういうことだ!?」


「……いきなり、君は煙に包まれたんですよ」


 勢いよく上体を跳ね起こすと、ふたりはある程度落ち着いたようで視線を彼に合わせるように座り直した。


 赤髪の青年もそれに合わせるように座した。――――正座で。


「なんて言うか、すっごいギャグ漫画っぽい煙と、あと効果音と」

「ですね。それで、その煙が晴れたと思ったら……」

「現れたのが、君じゃなくてロボット」

「しかも……、何だか前時代的というか、旧式というか」

「2足歩行じゃなくて、タイヤで動くタイプので」

「何だか話しかけて来てくれてはいましたが、なにぶん電子音でこちらも理解ができず」

「それで困ってたら、また同じように『ぽんっ!』って煙が出て来て」

「再び晴れたら、君が先ほどのように横たわっていた、という次第です」



 流れるような説明だったが、あまりにも滑らかで。

 そのままどこかに流れてしまいそうなくらいに、彼の理解は追いつかなかった。



 ただ、言われているうちに、少しずつ脳内の霧が晴れてくる。

 少しずつ、少しずつ、符合していく。


「……じゃあ、さっきのアレはそういうことなのか」

「え? なになに? どういうこと?」


 金髪少女が身を乗り出しつつ、顔も寄せてくる。


「タイミングとかそういうのはよくわからないけど、いきなり意識が……、いきなり吹き飛んだと思ったら、竜巻というかブラックホールというか、渦を巻いたようなものに吸い込まれた感じになった」

「怖っ」

「ということは、それがあの煙に包まれたタイミングと一致しそうですね……」

「そうだな……」


 よくここに、彼らの前に戻ってこられたと、肩をなでおろした。

 何か、考え直しでもあったのかと思うような感じだ。


「お前らの方は? 同じような感じだったのか?」


 言いながら、赤髪の青年は相対する彼らの服を指す。


「そうですね、僕は彼女と同じタイミングで」

「ぱーっと目の前が煙ったと思ったら、いつのまにか、って感じ」

「で、意識が吹っ飛ぶみたいなことは……」

「ありませんでしたね」「無かった」


 声がそろった。


「……俺も服装だけに留めてくれよ」


 あっさりとした返答に、がっくりと肩を落とした。


 ふと気づいて自らの服装を確認するが、先ほど意識が飛ぶ直前まで着ていたものと寸分の違いもなかった。

 折角だったら目の前のふたりほどではなくてもいいから、違うものがよかったなどと思う。


「変わったことはそれくらいか?」

「……『それくらい』と言うには少し規模がおかしい気もしますが」

「それだけと言えば、『それだけ』かもね」


 周辺の白さは何も変わらず、何にも染まらず、何も告げない。


 告げてくるのは――――。



「あ、また!!」

「おいおい……、っていうか、こんな感じだったのか俺も」



 ――――この煙ばかりだった。

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