【Phase.6-2】人は繋がり、輪となり繋がれて
★βテスト内で活動する主なクラン(組織)を一部ご紹介
【大手クラン】
►カエルムの塔……クランマイスター:キルリア/所属人数:792名/クラン傾向:エンジョイ~ガチ勢まで
戦闘フィールドの一つ『軌道エレベーター』に見惚れて、キルリアが「天空の塔」の意であるラテン語(Turris in Caelum)より付けた名称 (チーム内略称はTiC)。
所属メンバーはベスト10入りランカーが3名も加入しているβテスト最大手クランだ。
►資本主義の豚野郎……クランマイスター:オーガス/所属人数:414名/クラン傾向:ガチ勢
前作では国内ランキング26位に位置付けていたオーガスが設立したクランで、攻略・戦術などの開拓を主とし、カエルムの塔に次ぐ大手。
……が、現在ベスト20入りするような上位プレイヤーが所属していないうえ、主力の看板メンバーでシリーズ前作に於いてはプロゲーマーをしていた人物までが「恋人が出来たから忙しい」と抜けてしまったのが悩みの種。
【中小クラン】
►フライクーゲル……クランマイスター:エンドゥー/所属人数:6名/クラン傾向:身内
同じ高校の友人同士で作ったクラン。名付けはメンバーのノースが自身のインディーズバンドで歌う曲名から付けた。
とはいえ、前作をやり込んでいたメンバーも居り、存外に高いランカーが所属している。
※クラン創設者は『マイスター』と呼び、クランシステムの全権限が付与されている。
※マイスターは職務代行者として『マネージャー(またはサブマイスターと呼ぶ)』を最大三名まで設定出来る。
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――キルリアが
プレイヤーの加入数は約800名程。全βテスター総数が5000名なのだから、その二割近くもこのクランへ加入しているのは異常にも近しい。
彼女の人望や活動努力もあるのだろうが、βテストの上位ランカーが数多く『カエルムの塔』に加入しているので「上位プレイヤーの技術を盗みたい!」という思考から、中堅プレイヤーたちを集める広告塔代わりになっているのも大きいだろう。
そしてグライロウは、クラン創立から居るメンバーとしてマネージャー(サブマイスター)職を務めている……というのが、リーゼが知る概要であり全内訳だ。
「キル、先に行っててくれ」
「グライさん……もう、大丈夫なのですか?」
「ああ。ちゃんと
「解りました。では私はお
キルリアだけは会釈と共にこの場より去るも、グライロウはこの場に残り、リーゼの腰かけていた同ベンチへと座る。
「……おい、もっとソッチへ詰めろって。お互い身体がデケーんだからよ」
「あー、うん。……ええと?」
――彼は以前のアメコミ風コスチュームではなく、キルリアの服装に良く似た軍服テイストのものを身に纏っている。肩に『
瞳が真っ先に捉えたのは、分厚い胸筋と丸太の様な太い腕まわり……付随し、何時ぞやに締め付けられた記憶がリマインドされてしまう。
リーゼは至近距離に座ったグライロウの圧から、少し腰を浮かせてベンチへ彼のスペース作りをするも、いきなりの状況に理解が追い付かず困惑のまま。
加えて、さきに起こったエイリアスの襲撃状況も手伝い、無意識の警戒から脇をキュッと締めてしまった……が、その様子を見たグライロウは早速の本題を切り出す。
「あー……そう身構えるなって。コッチは今の状況を少しは理解してるんだぜ」
「んぇっ!?」
「お前さん、狙われてるんだろ?」
「ブッ!」
噴き出して続く言葉は無し。無言の肯定に帰結したリーゼ。
対しグライロウは自身のコンソールパネルを展開すると、一つのウェブサイトを手早く開いて「そこ、見てみな」とリーゼの眼前へ
彼の見せた仮想ディスプレイ。そこに映っていたのは――
* * *
前作の世界ランカー『
達成した先着一名になんと!?
『
* * *
――と書かれたサイトだった。
信憑性を帯びさせるためか『QUALIA』二台が映る写真もアップし、「余剰分だから差し上げられるのだよ」とアピールしている。
更にはリーゼの戦闘シーンを記録した動画も埋め込まれ、攻略方法と銘打った対策も書かれており、「タイマンは苦手」と自認する弱点もシッカリと記載されていた。
ここまではリーゼ自身も自覚があるので別に隠す程でも無いのだが、更には目立つように――
* * *
* * *
――の項目までも記されていたのだ。
続けて見ていくと、確かに海外サイトにて英文で書かれた事のある攻略法だ。しかもわざわざご丁寧に日本語で付記を加えてまとめられ、非常に良くリーゼの技術特性を理解した内容だった。
「
「ったく、初戦のクセに道理であんな強ぇ筈だぜ。前作の国内三位様とはなー……俺たちがやられた弾丸消しがお前さんの『ニュートラライズ』っつー技だったワケだ」
「ま、まぁ……うん……」
どうにも現時点で「ファントムブレイカーだ!」と訂正する気力は残って無いらしい。
しかし『ニュートラライズ』という呼称は海外で普及した名称で、世界大会でしか言われた事がない。この理由はシンプルに、リーゼは国内ランカーと戦うケースが極端に少ないためにある。
なにせ世界の猛者たちに視野を向けねば、更なる上位は到底目指せない……最上位クラスランカーのみが抱える悩みでもあった。
悪評にしても攻撃無効化に特化した戦闘スタイルから、海外プレイヤーより『厄介者』としての烙印と
「何せヤリ口がえげつねぇ。『QUALIA』には金をなんぼでも出すって輩は相当数いるだろうし、転売だけでも旨味がある」
「そう、だね……」
リーゼもフリマサイト内にて『QUALIA』へ180万円の値が付いて取引成立する事例も目撃していた程だ。
各プレイヤーたちを馬と見立てて、馬たちの目の前にその高価な人参をぶら下げたのが現状、という事だが……もっと言うなれば、その人参をブラ下げた黒幕はこのβテストに参加し、かつ前作でリーゼに恨みを抱く人物であろう可能性は大だろう。
何しろココまでβテスト内のリーゼ情報を逐一ピックアップしているのだ。今だって何処かで監視しているのかも知れない。
……やはり先日のアルマ(とカムイ)へのトラブル介入は飽くまで切っ掛けにしか過ぎない。既に積み重なっていた自身への攻撃が、ただ始まっただけなのだと思い知るリーゼ。
「――顔色、悪いぜ?」
「ん……大丈夫。教えてくれてサンキュね」
絞り出したようなリーゼの言葉。
聞いて少し困った顔になるグライロウは、ココでワザとらしく咳払いをする。
「あー、オホン! ……先に言っておくが、俺はお前さんが嫌いだ。馴れ合う気もないし、フレンド登録するつもりも
「……ま、そうだよねぇ」
「だが!! 今の状況はもっと気に食わねぇ……そこで
グライロウはベンチに座りながら、横目で「提案?」と尋ねるリーゼを見て続けた。
「お前さん、ウチのクランに入らないか?」
「!? それって――」
――提案の意味する事はすぐに解った。
これは只の勧誘では無い。
βテスターの約二割が集う最大手クラン『カエルムの塔』に加入すれば、少なくとも同クランメンバー同士、一定の保護や援護をしてもらえるという意味だ。
加えて大手クランとコトを構える輩が判明しようものならば、その者はリーゼの襲撃されている現状を『明日は我が身』として受ける事になるだろう為、抑止力までも手にする事が出来るのだ。
グライロウの瞳は今、『俺たちで護ってやる』と告げている。
彼にはプライドがあり、だからこそリーゼのプライドをも尊重している……そのために、わざわざ
――互いが対等でありたいが為に「護ってやる」の言葉は口にしないグライロウ。
互いに悪い印象しかなかった筈の初戦相手。
そんな彼からこんな言葉が出るとは思ってもみなかったが、今、彼の瞳が真摯さを湛えてリーゼの返答を待っている。
印象から勝手にグライロウを軽んじて見ていた事に、自身を恥じたリーゼ。
嬉しくあり、何処か気恥ずかしくもあるが『なればこそ!』と、リーゼも真剣に答えねばならない。
「有り難いんだけどさ……自分に掛かった火の粉は自分でなんとかしないと、ね?」
「そう、か」
リーゼが選んだのは申し出の辞退だった。
現状、こんな
更にいえば……所属した後にクラン内でリーゼを狙ったプレイヤーが出てきた日には、クランの内部崩壊ないし遺恨というヒビを残す事にもなる。
キルリアたちの積み重ねた努力を、我が身の可愛さで瓦解させるような事は、いちプレイヤーとしてしたくない。
「ん。アンタんとこは楽しそうだし、正直言って勿体ない事してると思ってるよ。んでも……うん、情報だけでも助かったよ」
「気にするな。それにウチは大所帯だからネットワークの広さで情報収集には余念なしだぜ?」
「ははっ……違いないね」
乾き気味ではあるものの、グライロウの言葉に少し救われたリーゼから笑う声が漏れた。
彼の精悍な顔も少しばかり砕けそうになるが、そこは見せまいと代わりに「さて……」と呟いて立ち上がる。
「じゃ、俺はそろそろ行かせてもらうぜ。大所帯のマネージャーは忙しいんでな」
「うん、りょーかい。残りのβ期間を楽しもうね」
「フン――あー、そうそう! 前作の世界ランカー『Li_ZE』と対等に渡り合ったってのが俺のクラン内での評判だ。だからお前さんは俺のライバルって事になってる……俺の為にも潰されんじゃねーぞ?」
その台詞の後半、彼は少し顔を反らしつつもムズ痒そうに言ったのがありありと判る。なんともその不器用さに、僅かだが心が解きほぐれた気がした。
「……プッ!」
「なんだよ?」
「いや、なんでもなーい……ん、もう少し足掻いてみるさ」
「それでいい」
――グライロウは歩き出しながら後ろ手を振り「じゃあな」と別れを告げ、その場を後にする。
リーゼも静かに立ち上がると、振り返らぬ彼の背へ密やかな「ありがとう」の謝辞と目礼を送った。
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グライロウが人混みに溶け込んだあたりで、彼の袖をチョイっと軽く引く女性が一人。
気付くと彼の隣には、お嬢様然とした柔らかな雰囲気であるのに、何故だか不思議と軍服がマッチした眼鏡女子が立つ……クランマイスターのキルリアだ。
「お疲れ様です。もうよろしいのですか?」
「あぁ、終わった。
「ええ。あの方はグライさんの
「手間掛けさせて済まんな――って、何だその顔は?」
様々に含めたキルリアの「クスクス」と綻ばせた笑顔と気遣いには、もう彼の照れ隠しも
少し唇を尖らせつつ、グライロウは視線を反らして言った。
「チッ……あーもう、いくぞ!」
「はいっ!」
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