Conceit
柊月
Conceit
あぁ、やっぱり。
心の何処かで気が付いていた。
よく分かっていたつもりで、諦めていたつもりだった。例え誰よりも想っていても、大切にしていても、私は何も守れないし手にも入らない。
そんな事、とっくのとうに思い知らされていたじゃない。
でも欲張りな自分は確かに存在して、いつしか心を開いてしまった。それは決してやってはいけない事だった。
心のどこかで気が付いていたんだ。
彼を人目見た瞬間、私は恋に落ちた。
膝を付き頭を垂れる時、ふわりと広がる近衛特有の純白の外套。左手を胸に当て、右手で私の手を優しく取り、そっと口付けを落とす貴方に、私は何度息を止めた事だろう。
貴方は優しい人。
周囲から蔑まれている私にも真摯に仕えてくれた。正妃から刺客をを送られた日、国民から情の無い言葉を投げられた時、使用人から嫌がらせを受けた日、貴族達から罵声を浴びた夜、全ての時において貴方は私を心配して、顔を覗いては味方でいてくれた。
貴方は厳しい人。
私が逃げ出したくなった時、貴方は私を叱咤した。このまま殿下は見返しもせず諦めるのですか、と、悔しくないのですか、と、近衛騎士の発言としては最低な言葉だったけれど、私に勇気をくれる特別な言葉だった。何より自分自身にとても厳しくて、その白い騎士服がとても似合っていた。
貴方は可愛い人。
自分からは私の表情を伺って顔を近付けたり、手を取ったり、平気な顔してする癖に、私が近付いた時は赤くなってたじろぐ。甘い物が好きなのに、男らしくないからと言って我慢する貴方が愛しかった。
貴方は甘い人。
私を愛していると言ってくれた。甘く瞳を融けさせ、頬を怖々と包み込む大きな手は手袋越しでも温かかった。ここから2人で逃亡しませんか、という言葉は、きっと冗談のつもりだったろうけれど、本気でも良いのにと思ったの。
この人なら、と。
私は幸せになれるかもしれない、と。
少しくらい手を伸ばしてみても神様は怒らないだろう、と。
思っていたのだ。
だけど駄目だった。
自惚れだった。
隣国の王女と貴方が婚約したと王が言った時、足元から私の心は冷えていった。彼の口から真意を聞きたくて探したが、私の前には一切現れなかった。
だけど、壇上の上の美しい貴方の瞳は悲しげに揺れていた。私と目が合えばほんのり目を見開いて、恋焦がれるような切ない視線を送る。
だから彼は私を望んでくれていると信じていたのだ。
あの満月の夜、この檻から抜け出して自由になろう、と手を差し伸べて誘った貴方が、今度は本気で来てくれるんじゃないかと、少し心待ちにしていた。
それだけを心の頼りにしてこの1年を1人で過ごしてきた。
でもあの画を見てしまった。
可憐な王女の腰を抱き、艶美に微笑む貴方。それに頬を染める王女は女の私から見ても可愛らしくて儚げで、お互い想いあっているのだと、現実を突き付けられた。どちらからともなく顔を寄せる2人を見ていられなかった。
そうか、私の思い違いだったのだ。
あの瞳の原因は、私に対する同情だった。
優しい貴方は私を突っぱねられなかっただけだった。
あぁ、なんて虚しいのだろう。
なんて無様で情けないのだろう。
端から違ったのに思い上がって。
それからの夜は眠れなかった。
目を閉じれば貴方が浮かぶから。
あんなに頑なに外さなかった手袋を彼女の前では、なんて妬いてしまうから。
目を開ければ涙が零れてしまうから。
あの一時の夢をもう一度みたいと願ってしまうから。
私を必要としてくれる人はもういない。
貴方は残酷な人。
気にしないで。これは私のただの八つ当たり。
私は、要らない王女。
もう、いいか。
最期くらい貴方を想ってもいいでしょう?
苦く切ない毒を口に含んだ。
次の人生は素晴らしくあれるように祈って。
*****
読んで下さりありがとうございました!
私にしては珍しく、悲恋、バッドエンドを書かせて頂きました。
如何でしたでしょうか。
他作品も書いておりますので、よろしくお願いします~
柊月
Conceit 柊月 @hiiragi-runa-6767
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