ポルター ドロイド
キャベツ太郎
第1話
とある未来。人間とアンドロイドの共存が当たり前になった世界。
仕事や生活の中で、共に助け合う。まさに理想的な関係と言えるだろう。
だが、いいことばかりとは限らない。
密入国されたもの。法外な改造を受けたもの。
それら違法アンドロイドが、この国にいくつも存在していた。
そして、そういったもの達を取り締まる特殊組織。
一般向けよりも高性能な特別機体と、それを操作する人間が共に戦う。その名も
「PANDORA FACTORY」が、国の各所に設立された。
これは、とある街の人間とアンドロイドの物語である。
それは、ヒトか機械か?
…………
この小さな街、ヘクトリスにもついに「PANDORA FACTORY」が設立された。元々は別の街の班がヘクトリスを兼任していたが、この街では大した事件が起きていない。
せいぜい小さな密入国事件くらいだ。
そんな街にわざわざ別の街の人員を割く必要がないと上層部が判断したのか、今まで班は作られなかった。
しかし今回、新しい班ができた。
いくつも班を作っていれば、新しい班を作るなど簡単な事なのだ。部屋と書類さえあれば簡単に作れる。
そうして新しく作られたヘクトリス班に与えられた部屋は、ある研究施設の一室だった。
その中では二人の女性が荷物を運んでいた。
二人。明らかに人員不足だ。
「これでだいたいおわったかな。」
彼女はアンネ。この班のアンドロイド操作員。通称クリエイターだ。
「…うん。」
こくりとうなずいたのは、ティラ。この班のシステム担当。指示出しなどをするのがおもな仕事だ。
引っ越しが終わった部屋を見渡すアンネ。
「ここが私たちの職場かぁ…」
アンネはニコニコしながら室内をふらふらしている。
「あとはアンドロイドが届くのを待つだけ…。」
ティラが言う。なんだかわくわくしているようだ。
「ティラは特殊機体、見るの初めてだっけ?」
アンネが立ち止まって聞く。
「…うん!」
期待に胸踊らせるティラ。それもそのはず、ティラはアンドロイドの知識に明るい。簡単に言えばアンドロイドオタクだ。
一般型から特殊機体までさまざまな知識を持ち合わせている。
中でも女性型アンドロイド、通称ヴァルキリーの知識においては右に出る者がいないというほどである。
「ヴァルキリーが来るといいね。」
アンネが微笑みながら言った。ティラは恥ずかしそうにぷいっと顔をそらした。
「こっちも終わったぞ。」
元々この街を兼任していた別班のハンナが来た。
正義感が強く、人望も厚い頼れる女性だ。二人の引っ越しを手伝っていた。
「ありがとうございます」
アンネがそう言ってお辞儀する。続けてティラもそそくさとお辞儀する。
「たのんだぞ。お嬢さんたち。」
ハンナがそう言って小さく笑いながら立ち去った。
「いい人だね。」
アンネが呟く。ティラもそれにこくりとうなずく。
「…アンネって、…ヴァルキリーみたことあるんでしょ…」
ティラが聞く。こんどは神妙な面持ちだ。
「うん。ちっちゃな時だったから、はっきりとは覚えてないけど。」
アンネが続けて。
「きれいなヴァルキリーだったよ。」
アンネが微笑んだ。ティラもつられて微笑む。
………
「だからさぁ!この袋いっぱいにいれろっつってんだよ!」
小さな街の宝石店で、女が叫んだ。
「早くしねぇとそいつみてぇになっぞ!」
女が指さした先には、身体中穴だらけになった従業員が倒れていた。それは人の形をしていなかった。肉塊というのが正しいだろう。
「やっぱこいつはスゲェや!」
女が、隣に立っているアンドロイドの肩にポンと手をおく。
それは女性型アンドロイドを改造したものだった。両腕にガトリング砲を装備しており、その銃口は職員に向けられている。
「こいつがいれば何だって手に入る!ぜんぶアタシのもんだ!」
女が続けて言う。
「早くつめるんだよ!」
アンドロイドの銃口が天井を撃ち抜いた。
……………
「やっと終わった~」
アンネが呟いた。あれから二人は会議に出ていた。新しい班の活動にあたっての注意事項の説明などを受けていた。
空はすっかり薄暗くなっていた。
ティラが部屋の電気をつけた。まだなれない新居の香りが2人を出迎えた。
「あれって・・・・」
部屋の真ん中に見慣れない大きな箱が置いてあった。
そしてその上には手紙が置いてあった。宛先はアンネだ。
アンネは恐る恐る封を切った。
手紙には、この箱の中身がヴァルキリーであることを示す内容と、アンネへのささやかな祝福の言葉が書いてあった。
「これヴァルキリーだよ!」
アンネはティラの手を取り喜んだ。ティラも喜びの表情を浮かべた。
「開けてみよう」
アンネは手紙に書かれていた起動手順を試した。
箱についている鍵のようなマーク。それにマスターであるアンネがてを触れれば、ロックが解除される。
アンネがマークに手を触れた。
するとガチャッという音と共に、勢いよく箱のふたが開いた。
二人は驚き後退る。
それからゆっくり箱の中を見た。
そこには長い白髪の、一見人間の少女と見間違えてしまいそうな、美しい人形が眠っていた。
「きれい・・・・・」
ティラが思わず言葉をもらす。
アンネもその美しさに見とれてしまった。まるで今にも動き出しそうな、可憐なその人形を見て、アンネは過去に見たあのアンドロイドを思い出す。
彼女も長く美しい髪がまぶしかった。
「アンネ?」
ティラの言葉で我に帰った。今まで以上に過去の事を思い出してしまっていた。
「どうしたの?」
心配そうなティラがたずねる。
「すこし・・・昔の事をね。」
「ちっちゃい頃に見たアンドロイドの事?」
「少し見た目が似てて。」
「・・・こんな感じだったんだ。
こんなきれいだったら、そりゃ脳裏に焼き付くわけだよね。」
ティラが感心する。普段よりテンションが高い。
「あーーー!?」
ティラがいきなり大声を上げ、あとずさった。
「どうしたのよ?」
「目・・・目が!」
「目・・・?」
ティラが指差す方向に目を向ける。
なんとアンドロイドの目が開いているのだ。
「私・・・何もしてないけど!?」
アンネが疑問の声を上げる。
アンドロイドは、本来ならマスターが本体のスイッチを押さないかぎり起動しないものなのだ。
何もせず起動するなどありえない話だ。
アンドロイドがゆっくりと箱から出てきた。
それからアンネの方へまっすぐ向かっていく。
「はじめまして・・・マスター。」
そのアンドロイドは、その青い瞳でアンネを見つめ、そう言った。
ポルター ドロイド キャベツ太郎 @kyabejin
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