人間関係美容室で身も心もさっぱり

ちびまるフォイ

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「いらっしゃいませ。精神美容室へようこそ」


「本当に信じられない! 男なんてもう死ねばいい!」


「おやおや荒れていますね。どうかしましたか」


「実は彼氏に浮気されたんです。その相手が私の友達なんです。

 もうホント最悪。盆と正月がどっちも休みじゃなくなったくらい最悪です」


「それはそれは……それじゃさっぱりしましょうか」


美容師は客にシートを広げる。


「今日はどのくらい関係を切りますか?」


「なんかもうさっぱりしたいです」


「でしたら、前の彼氏の関係は切っちゃいますか」

「そうですね」


美容師は人間関係の糸を指でたぐりハサミを入れる。

ジョキンと金属の金音が聞こえた。


「いかがですか?」


「なんかさっぱりした気がします」


「人間関係を断ちましたからね。これでまた浮気男が未練がましく

 あなたに連絡してきたりすることはありませんよ」


「もう過去に振り回されることはないんですね」

「はい。精神美容室ですから」


客は本数を減らした人間関係を見ながら様子をうかがっている。

美容師は察して声をかけた。


「前の友達関係はどうします?」


「うーーん。切っちゃってください。

 友達経由で元彼と結婚しましたとか連絡がきたら

 また嫌なことを思い出さなくちゃいけないじゃないですか」


「では切りますね」


ジョキン。


「後ろの友達関係はどのくらいにします?」


「あーーどうしよう。切っちゃおうかな」


「そうですか?」


「なんかもう人間関係に疲れちゃったんです。

 みんな嘘つきで私を騙すし。誰も信じられない」


「切りますか?」


「友達関係も全部切っちゃってください。みんな信じられないんで」


ジョキン。


「連絡先に入っているだけの関係は?」

「切ってください」


「かつての仕事仲間は?」

「切ってください」


「仲の悪い親子関係は?」

「切ってください」


「フォロワーは?」

「切ってください」


「はがきも出しておきますか?」

「切手ください」


ジョキン。ジョキン。ジョキン。


「終わりましたよ。お疲れ様でした」


「あーーなんかさっぱりした。これでもう煩わしい人間関係に

 振り回されることがなくなったんですね」


「はい。縁切りバサミですから」


「ありがとうございます。もう人間関係なんてまっぴらです。

 身軽で気楽なひとりでキラキラした人生を歩んでいきますっ」


「応援していますよ。お支払いまでソファでお待ち下さい」


美容師は床に散った人脈を放棄で集めてゴミ箱に捨てていった。

客がソファに腰掛けると隣に雑誌を読んでいる別の客が座っていた。




「お客様、お待たせしました。お会計をお願いします。

 人間関係のすべてを断ったのでしめて4500円になります」



すると客は楽しそうに立ち上がった。



「ちょっと聞いてくださいよっ。

 さっき話したんですけど、隣のこの人とすごく話が合っちゃって!

 趣味も同じでもう友達になっちゃいました!!」

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