第1話 恐怖

幻が指をさしたそこにいたのは見るからに人間ではない妖しいものだった。炎をまとった車輪の様なものの中央に男の顔がある。

こっちに来ている!


「なんだあいつ⁉︎」

「捕まえたるでー!」


車輪の男(仮)がそう叫ぶとすぐに、幻も「早く逃げろ!」と車輪の男の大声を上回る声で叫んだ。

僕は追いついてこいよ!と大声で叫んでチャリに乗り、幻から離れて逃げた。

これは見捨てたわけではなく、どう考えても、運動神経的に劣っている僕が、逃れるようにしてくれている幻の配慮だ。

まさか、冗談で言っていた『不審者に会ったら俺を置いて逃げろ!』ていうのがここでなるとは....


ガラガラガラガラガラガラ………

ガラガラガラ

ガラガラ

ガラ

ガラ……

…………………


僕は逃げて物陰に隠れた。音が遠くなるのがわかる。僕の逃げた方を幻は見ていたし、車輪の男(仮)を突き放して少ししたら来るだろう。幻が明らかに自転車で逃れると思っていたから先に逃げろと言ったのだ。

待てよ...?自転車のチェーンが外れたら終わりではないか?

しかし、その瞬間遠くから大声で「もう大丈夫ー!」と返事があった。

だが待ってみると結構時間がかかった。帰って来た幻はほんの少しであるが息が上がっている。こいつが疲れる事なんて事があるのか?体力の大海原と呼ばれる幻だぞ?

それからお互い休憩していると、またなにかが近づいて来る音がする。今度は車輪の音とかではなく空気が圧迫される様な音だ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

さらに音が大きくなり、幻が音が鳴ってる方に気づき、上を見て呆然とした顔で静かに言った。


「隕石だ」


僕も上を見た。

巨大な岩石が激しい光と灼熱の炎をまとい近づいてくる。

周りの空気は熱せられ、さっきまで薄暗かった空はまるで日中のように明るくなっている。

…………………

死を覚悟した。

これはダメだ。これだけはダメだ。これは想定外だ。そもそもこれを想定内と言えるのはこの世にはいないと思うが。もう何もする事ができない。例えばIQ世界一の人がこの状況に出くわしてもなにもできないと思う。こんなの誰にも回避できない。あの達真にもできない。

でも、なにかで知る事はできなかったのだろうか。朝のニュースかなにかで出ていなかったか?もし隕石が今日落ちるとしたら、避難勧告とかあるんじゃないのか?それに落ちる直前とかなら避難警告みたいなものがスマホで鳴るんじゃないのか?

…そうか圏外か。駄目過ぎる。なに道に迷ってんだ僕は。


『僕は幻を巻き込んでしまった』


それ以上考える事はなく。

はぁとため息をつき、ぼーと隕石が迫り来るのを見ていた。

そして急に目の前が歪んだ。

めまい?いやこれは違うな、言葉で説明できない感覚だ。痛みも感じない。意識が遠くなる。

僕死ぬのか。そういう感覚なのか。


こ…はど………こと……だ

ま……う…………ら…………か?


ん?なんか聞こえた?

気づいたら僕らは見知らぬ所にいた。

「誰?」と僕は見知らぬ所にいる見知らぬ人に向かって言った。

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