第4話 人形師との再会
「とってもお似合いですお嬢様。あまりにもお綺麗すぎるので今日は早めに撤退致しましょうね。」
「何を言っておられるのですかアルバ様は。ほら、シャキッと前を向く。」
お嬢様は綺麗な桃色のドレスにハーフアップ、可愛らしい髪飾りを揺らしながら遅れて私と登場する。本日の主役は主、もとい父だが正直二人とも気乗りしないためミレーナに渋々登場させられる始末である。
「ミレーナがいつになく厳しいです。貴女もいい加減いい男の一人や二人見つけては…いてててて。」
ミレーナは私の耳をひっぱる。
「今日という今日はお嬢様以外の女性とも踊ってきてくださいましね。私遠くから見ていますので。ほら見てくださいよ。お嬢様に殿方たちは釘付けですよ。」
「ふざけたこと言わないでください。こんな場所、父上主催でなければ絶対に出ません。お嬢様も出させたりなんか、しません…。」
というかそもそもこんなに男がいる社交場でお嬢様を晒すなんてもってのほか。舐め回すような視線を向ける輩には殺気を当ててしまいそうだ(現に当てている)。そんなことを考えながら楽器隊の前を通っていると、不意に袖をちょんっと力なくお嬢様に引っ張られる。
「アルバも、その…似合ってるわよ。」
いつもの服を少し上品にさせた程度の服を褒めてくださるのか。しかも先程までずっと無言の後の一言がそれとは…。
「ありがとうございます。私一生お嬢様について行きますね。」
「もうツッコミませんからね。あと一、二曲したら主が出ていらっしゃって乾杯なさるのでお二人ともきちんとお互いではない方と踊ってきてくださいね。」
では、とミレーナは手早く戻り、ウェイターたちに指示を出す。あの歳にしてメイド長の次に古株で実力もあるのだから大したものだ。
「さあみんな、やるわよ!」
そして彼女の魔法はこんな時に特に力を発揮する。彼女が指を鳴らすと裏の扉が勝手に開き、盆に乗ったシャンパンが客人たちの元へ届いていく。ウェイターはいない。盆が宙に浮いているのだ。彼女の魔法は複数の物を思った通りに立体浮遊させることができる。ドリンクを注いだりするのも浮遊の応用で可能だ。実質、彼女一人いるだけでメイド何人分かわからないほどのはたらきだ。
「ミレーナからは全く聞かないけれど、彼女の魔法を見て婚約の申し出などはないの?」
不思議そうにお嬢様は呟く。呑気な屋敷で過ごす時間が多いため忘れやすいがこの世界の人間は一人一魔法原則として生まれつき持ち合わせている。魔法は親などからの掛け合わせ、遺伝など様々。ただ昔から言えるのは珍しく強力な魔法を持つものはたとえ平民であろうと重要視されることだ。ミレーナのような物体浮遊をここまで制限なく使える人間は珍しい。そのためミレーナの魔法を見られた貴族の殿方が彼女を娶りたい…などとお考えになることもなくはないのだ。というか、
「全然ありますよ。父上がミレーナをお嬢様同様に可愛がっていられるのでそこでダメな輩はアウト、ミレーナの所まで行き着いても断られるのがオチです。」
「そういう話するとまだ仕事のが楽しいからって言うのよ。私のこともいいけれどそろそろ年相応の女の子みたいなことしてほしいのよね。」
はあっとため息をつくお嬢様のなんと慈悲深いことか。アルバ、感激です。
「何気持ち悪い顔してんだよアルバ。おっご自慢のお嬢様もいるじゃないか。」
いつの間にか私の反対側にいたプラチナブロンドの髪の男はお嬢様の手を取りキスをした。
「なっ…なっ何をしているんだ…?ジェラ。」
「ふっふーん。その顔が見たかったんだ。失礼致しました。レオンハルト令嬢。」
この愚行をやらかしたのはジェラード・ドーラー。隣の領主の息子。私のかつての学友である。
「いいえ、私も久々に面白いものが見れたわ。ありがとう。」
「それにしてもアルバが話していた頃はまだまだ小さかったはずなのに。時を感じるね…。」
学園時代は良くも悪くも変わり者だった私と一緒にいてくれた憎めないやつである(お嬢様の話をいつもしっかりと聞いてくれたのはなぜかジェラだけだった)。
「私ももう学園の最上級生になりましたの。今年に卒業して家を支える身ですわ。」
お嬢様…ご立派になられて。
「もうそんなか。卒業したらドーラー領にでも遊びにおいで。その男の事だ。ろくに外にも出せてもらってないだろう。」
こいつ余計なことを…お嬢様を狙っているわけではあるまいな。
「そうさせていただきます。一度ドーラー領の人形劇団を拝見させていただきたいと思ってましたの。でもドーラー様、言い過ぎですわ。アルバは確かに過保護ではあるけれど、私の身を考えての行動ですもの。」
「…天使か。」
「今日のアルバは一段とダメだな。実はここ来てから皆レオンハルト家の一人娘ビアンカ嬢に一目お目にかかりたいって言ってたぜ。俺は絶対そんなのアルバに殺されるからやめとけって言ったけどな。」
「その前に貴様を処してやらんこともないがな。」
「笑顔で言うのが最高に面白いぜ相棒。」
その時の私はなんだかんだ古き友との再会を懐かしみ、お嬢様への意識が疎かになっていたのだ。あんな後悔に繋がるとも知らずに。
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