第40話
早朝、始発で待ち合わせの駅へ向かうとすでに桜井先輩とエルがいた。性格的に時間前行動を特にしそうな二人だが、なんともまあ伝えづらい険悪な雰囲気だ。私を見るなり、二人はこちらへ駆け寄ってくる。
「おはよう猫谷さん。忘れ物はないかな。」
スキーやスノボも向こうでできるらしいがエルの家が貸してくれるそうで私が持ってきたのは寝泊まり用の荷物だけだ。
「おはようございます。もちろんバッチリですよ。えっ、桜井先輩ピアスあいてたんですか?」
「ああ、これ?学校では禁止だからね。休日はその分自由にさせてもらってる。」
桜井先輩はいつもと違って左耳にピアスをしていた。これは恋王国でのノアと全く同じだ。うっわー今世ではしてないと思ってた。真面目な人がしているピアスってギャップすごいよね。
「おはよー!儚日。君と一緒に行けるなんて本当に夢みたいだよ。マフラーなくて大丈夫?寒くない?」
つかさずその間に入ってくるエルはいつも通り。女の子を射止めそうなオーラを醸し出している。
「ん、リュックの中に入れっぱなしで。どうせ後でとるならいいかなって思って。…ほかの皆さんはまだですか?」
「まあまだ集合時間の十五分前だしね。儚日が早いってことさ。それまで寒いだろうから俺のマフラーしときな。」
「ちょ、でもっ。」
さっとエルのマフラーを巻かれる。こういう恥ずかしいことを人前で堂々とこの人は…。
「彼女が寒そうにしてて放っておけないでしょ。もう言わせないで。」
むーっと脹れた顔の向こう側に呆れた表情の男が一人。
「おはようございます。会長たち今日もアツアツですね。」
「おー、おはよう鬼丈。そんな妬くな妬くな。」
小突くエルに楓は嫌そうな表情だ。私だって微妙な表情になるっての。やめてよこんなとこで。
「傷が癒えてない人間にやめてください。いくら会長でも殴りますよ。」
「会長にそんな事はさせません。」
「島ちゃん走っちゃ危ないよー。」
ひょっこり出てきたのは寺島さんと忠野先輩だ。二人仲良くやってきたのだろう。
「そういうあんたらも!俺の前でイチャイチャすんな!!なんなんだよもう!」
「イチャイチャしてません!…桜井公安委員長、公安委員はこれで全員揃っていらっしゃるのですか?」
そう言いながら忠野先輩の隣を譲らないのを私は見逃さないよ、寺島さん。
「うちは全員参加ってわけではないからな。…うん、これで全員だ。」
「じゃあそろそろ電車もくるし向かいますか!」
こうして、わくわく懇親会?慰労会は始まりを迎えました。
ーーーーーーーー
そこから大きい駅に出て新幹線に乗り継ぎ、目的地の駅に着くと蝶ネクタイなんかしちゃった品のいいおじさんがエルにぺこりとお辞儀をする。
「エル様、お待ちしておりました。」
「この人数なんだけど大丈夫かな?」
「もちろん、バスを手配しております。皆さんこちらにお願いします。」
そのままその人についていくと小学校の遠足とかで使うみたいな大きいバスがあった。どんだけ金持ちなのかなエルさんは。バスに乗ってからあのバスガイドさんが使うマイクでおじさんは話し出す。
「申し遅れました。私、茗荷谷家から別荘地の管理を任されております。土田と申します。何かございましたら私にお声かけください。」
私の隣に座っているエルはいつになくぼーっとしている。
「バスといい、土田さんといい…VIPすぎやしませんか?…おーい。」
「ん、ああごめん。つい懐かしくて。土田さんはいい人だよ。昔は執事長やってた人だし、何かあったらすぐ土田さんに言いなね。」
「うっわー金持ちキャラ発言きた。」
執事、だと?前世かゲームの中だけの存在だと思っていたぞ?
「やめろって、たまたまだよ。ね?たまたま。あ、あれだよ君ん家でいう隣のお兄さん的な。」
「えっ土田さんって輝也さん的なポジション?」
「そうそう完全にそうだよ。なんとなくお兄さんにも似てるし。」
「いや絶対それはないです。」
…少し私に気を使っているのだろうか。前世のエルを知っているから今のエルが無理をして元気に見せているのがわかる。なんだかんだあと何週間かで決着をつけなければならない。こうなって当然か。
そう考えた矢先に土田さんの声が耳に入る。
「皆さんお待たせ致しました。茗荷谷家の別荘に到着です。」
「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」
そこにはザ別荘という感じの小洒落た家…屋敷があった。屋敷の後ろ側、少し遠くにスキー場があるのが見える。すごい!こんなの漫画だけの世界だと思ってた。土田さんがみんなを案内する中、私には専属の案内人がいた。
「儚日!どう?これが俺ん家の別荘。母さんの趣味でこんな家なんだけど良かったら入って。」
手を出されエスコートされる。
これから三日間、色々忘れて楽しむぞー!!
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