第5話

とうとうやって来てしまった遊園地当日。

茗荷谷からの連絡では私と楓(私の向かいのマンション)のマンションの所有する公園集合になった。


「どこ情報よ。…家がついに割られてしまった。」


頭を抱える私に楓はため息をつく。


「早速やられてんじゃねえかよ。音乃木は先に迎えに行くらしいから、もうすぐ着くんじゃね?構えとけよ。」



ーーーーーーーー



それから数分すると殺風景な景色に小綺麗な白いリムジンが割り込んできた。あーソウイウカンジナンデスネ。そしてもちろんそのリムジンは私たちのいる公園前で止まる。


「やあ、おはよう。猫谷さん。そして鬼丈くんも。」


モデル体型の彼にこれまたお似合いのデニムにブーツ。キラキラオーラを纏わせて茗荷谷はリムジンから降りてきた。後ろからそわそわした灯もついてきた。


「…あいつ、もって言いやがった。もって。」


すでに楓のイライラ度はいっぱいいっぱいだが、ここは私が上手くやるしかない。


「おはよう灯。あっ茗荷谷先輩も。」


「ははっ、猫谷さんは相変わらずだね。さあ乗って、今日は楽しもうじゃないか。」


さあ乗った乗ったとバカ長いリムジンへと押され、完全に先輩のペースだ。


「うわっ…なんすかこれ。」


楓が思わず目を細めた。

中はまるで女子大生が友達同士と誕生日を祝うかのようなたくさんの風船と炭酸飲料、そして床にはふかふかのファーが敷かれていた。


「君たちのために車もおめかししたんだ。どうだい、気に入ってくれたかな?」


明らかに私を覗き込んで言ってきた、が私は難なく交わす。


「へえー先輩も乙女チックな趣味あるんですね。」


「君たちが喜んでくれると思ったんだ。」


手の甲にキスをする。キザすぎて震えが止まらない。先輩越しにいる楓も笑いを堪えるのに必死だ。


「…てかまだつかないんですね。」


「ははっ相変わらずのようだね。いつも君はおもしろい。ね、音ノ木さんもそう思わない?」


ここで灯に話を振るのか。灯は先輩の向こう側にいるがカチコチなのはこちらからでもわかる。


「は、は、はいっ。先輩、私の名前知ってたんですね。」


「なーに言ってるの。俺生徒会だよ?生徒まとめるやつが生徒のこと知らなくてどうするのさ。」


お、たまにはいいこと言うじゃない。


「ま、猫谷さんのことはもっと知りたいと思ってるけどねぇ。」


左横からのこのアングル、こいつの得意技だった気がする。まあそんなので赤面するのは何も知らない女の子たちだけだ。


「別に知らなくていいと思うっすよ。こいつ家とかだとすんげーズボラなんで。」


楓がぐっと私をそっちへ引き寄せた。

もう暑苦しいな。


「ふーん。鬼丈くん、猫谷さんのお家とか入ったことあるんだ。鬼丈くんが大丈夫なら俺も大丈夫だよね?今度よんでよ。あ、それか今度は俺の家に来る?」


来させないしいかないわ!

もういい加減しつこいので無視を決め込むことにした。灯はカチコチで私を挟んで二人はマウントの取り合いだ。




ーーーーーーーー




なんだかんだで遊園地に到着し、私たちは乗り物に乗ることにした。私には秘策があったのだ。前世の茗荷谷は確か三半規管が弱かったはず…ここであいつに嫌われるには。


「ねえみんなジェットコースター乗ろうよ!」


ーーピクピクひきつるその顔を、さあ見せなさい!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る