END1-2『告げられる真実』
目を開けると、そこは教会だった。おそらく『彼女』が私に会いたいと祈っていた場所だろう。それにしてもこの『夢の世界』の始まりは必ず彼女のいる場所になっているのだろうか。はたまた単に私が会いたいと強く願ったからだろうか。真相は定かではないが、私にとっては都合が良かった。私は入り口の付近からステンドグラスから光が差し込む場所に正座をして祈っている彼女のもとへと1歩、また1歩とゆっくりとした足取りで近づいていく。その足音に気がついたのか、彼女は私の方へと顔を振り向ける。
「ふーか、ただいま」
「
私だと認識した瞬間にすぐさま立ち上がり、走ってこちらへ向かってくる。
「葉月なのね……よかった……ホント、よかった。おかえりなさい」
そして私に抱きつき、安心したような顔をして私の顔を見つめる。そんな顔を見てしまうと、私としては罪悪感を覚えてしまう。だってこれから告げようとしていることは、
「ごめんね、約束したのに……」
それに加え、一度帰ってきた約束、それすらも破ってしまったのだ。私はもう風花に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ううん、いい。会えれば、それでいい」
「でさ……私風花に伝えなきゃいけないことがあるんだ」
私はバツが悪そうに、彼女に一番伝えなければならないことを切り出す。正直、この事実はホント言えば告げたくない。いざ、彼女を前にしてしまうと、やっぱりこのままでもいいかなって気持ちに誘われてしまう。でもこれは私が決めたことなんだ。だからそんな悪魔の
「え、何?」
「……あっちの世界で1つわかったことがあるんだ」
「わかったこと?」
「あのね……この世界こそが私の描いた夢の世界で、私が飛ばされたと思っていた世界こそが本当の現実世界だったんだ」
「うそ……嘘でしょ……?」
その事実を聞いた風花は顔がどんどんと青ざめていき、その悲しい事実をとても受け入れられそうにはないような感じだった。
「ホント。その証拠にこの世界のことが書かれてあった本があった。たぶんね、妹の話からすると私がその本を書いていたみたい。しかも無意識の状態で。そして夢の中へと入り、こっちの世界であたかも現実世界のかのように生きてたってこと」
「そんな、うそ、うそよ……」
目の前の事実を受け入れられず、それを必死になって否定しようとしている風花。その目はもう光を失ったようなそれで、彼女の瞳の中には『希望』という光はないように見えた。
「ごめん。だからさ、こっちに来たのもお別れを言うためなんだ……」
「いや……いやぁ……」
風花は思いが高ぶり、それがついに溢れ出して涙となって流れ落ち始めていた。その姿を見て、私はまたしても心がぎゅーっと苦しくなった。どうして別れなければならないのだろうか。こんなにも愛おしくて、大切な人が目の前にいるのに……そんな彼女と離れ離れになってしまうなんて。そんなの、あまりにも辛すぎる。
「私もね、本当は離れたくない。本心ではいつまでも一緒にいたい、そう思ってるってことはわかってほしい。でもね、風花。夢はいつまでも夢。現実は現実なんだ。夢の世界にいすぎるのはよくないと思う」
私は自身の嘘偽りのない本音を彼女にぶつける。ぶつけた上で、私がこれからしようと思っていることを理解してもらえるように説明する。私のこの思いは心の底から思っている事実だけれど、この世界やそして風花も『夢の産物』というのもまた事実。だからこそ、私はこの世界から断たなきゃいけないんだ。
「いいじゃない! 別にここが夢の世界だって! もうわがままなんて言わないから! 現実世界に戻ったのなら、私ずっと待ってるから! それでもいいじゃない……うぅ……うっ」
子供みたいに泣きじゃくて、いつもの冷静さも忘れて私にそうやってわがままをぶつけてくる風花。
「キツい言い方になるけど、それは絶対にダメ。今の私は記憶が曖昧になって、現実世界とこの世界との区別がつかなくなってる。どんどん現実世界の記憶がなくなって、いずれはこの夢の世界に飲み込まれてしまう。だからこの『甘え』でできた世界から私はもう断つことにしたんだ」
「ずっと一緒にいるって言ったじゃない! 私のいない世界はありないって、そう言ってくれたじゃない!」
「そうだね……無責任なこと言って……ごめん」
私はもう心臓が破裂しそうなくらいに苦しかった。風花のその私を求めるような表情に、悪魔に身を
「やだよぉ やだぁ! 離れたくないよぉ……」
「葉月はどうしてそんな残酷な選択ができるの? 私と離れ離れになっちゃうんだよ? もう二度と会うことができなくなっちゃうんだよ?」
そんな葛藤している最中、さらに追い打ちをかけるように風花は私に悪魔の言葉を囁いていく。それと同時に、私の頭の中には風花との思い出が走馬灯のように溢れて出してきてしまう。だから私は目を閉じて、『これは私の創りもの』とそんな残酷なことを何度も頭の中で繰り返して悪魔に乗っ取られないように必死で
「…………たしかに風花ともう会えない辛い。きっと今より何十倍も辛い地獄のような世界が待ってると思う。でも、それこそが現実なんだよ。自分の思い通りになんて行かない。だからこそ辛いこともいっぱいあるけど、でもその分楽しいこともいっぱいあるから」
そして私は心を鬼にして悪魔を振り払い、私自身を取り戻して今一度風花を説得する。たぶん、これは希望的観測でしかないけれど、現実の世界だって現実の世界なりに楽しいことだってあるはずだ。要は気の持ちようなんだ。その本人がその世界を楽しめるかどうか。たしかに別れは辛いけれど、『出会い』もまたあるから。私は前向きに現実と付き合っていこうと思ってる。
「…………葉月は、本当にそれを望んでいるの? 後悔しない?」
「…………うん。やっぱいつまでも夢に浸っているのはよくないと思うから」
風花のその言葉に、私は自分の中で少し考えて、でもやっぱり同じ結論を下した。
「わかった。葉月がそう決断したんだから、私は何も言わない。私が一緒にいたいっていう気持ちは、今は葉月の未来を邪魔してしまうから」
「ありがと、風花」
「でも、最後に1つだけお願いしてもいい?」
「うん、何?」
「最後のキスをして。最初で最後のキスを――」
「ふふっ、わかった」
間違いなく最初で最後の風花とのキス。これほどに幸せなものはないように思えるほど、それはとても心地のよい時間だった。たぶん風花もこれが初めてのキスで、きっと緊張しているんだろう唇が微かに震えている。でもこの感覚と感触は忘れないように、脳にしっかりと刻み込んでおこう。私の人生という一生で、もう二度と味わうことはできないそれなのだから。あぁ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。そうすればこの幸せな時間はずっと続くのに――
「へへへ……」
唇を離すと、自然と風花と目が合った。でもなんとなく恥ずかしくて、2人ともそんな風に照れたような笑みになっていた。
「――じゃあ、そろそろ行くね」
2人の、最後の時間をしばらく堪能した後、私がそう別れの時を告げる。
自身の意思で現実に戻ったことはなかったので、実際問題いけるのかは正直不安だったけれど、この世界はそもそも私が作り上げて、今もなお作っているものなのだからたぶんいけるだろう。
「……うん!」
それに一瞬だけ、風花は悲しい目をしたが、すぐさま笑顔になってそう頷いた。最後は笑顔で見送ってくれるようだ。私が大好きな、風花の笑顔で。
「さようなら、風花」
そして私は風花に最後の言葉を告げ、私は目を閉じて身体をこの世界に預けた。すると後ろに引っ張られるような感覚がして、そのままその方向に倒れていく。それと同時にどんどんと自分自身の意識がなくなっていき――
気づいた時にはいつものように机でうつ伏せになって眠っていた。辺りを見渡し、携帯のメッセなどを確認してここが現実世界だと証明したところで、すぐさまおそらく書いていたであろう本を開いて、その文章を修正し、
――夢の世界へと再び戻った葉月は風花とその世界で仲良く暮らし、幸せな日々を歩んだのであった。
Fin.
私の綴った物語にこう終止符を打つことで、風花を幸せに暮らしていけるようにしてあげた。この本の世界では私はいわば『神』のような存在だ。私だけがその世界を操れて、私こそがその世界のルールなのだ。だからこそせめてでも風花を幸せにして、辛い思いをさせないようにすることにした。きっとこれで風花はあちらの世界で幸せに暮らせるだろう。私は……たしかに大切な人を失ってしまったけれど、でもこれも全部言ってしまえば自業自得だ。自分が作り上げた幻想に恋をしてしまっただけのことなのだから。こればっかりは仕方がない。言うならば、これは『罰』みたいなものなのだ。現実から逃げて、夢の世界に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます