END1-1『暴かれる真実』
「――あれ、何これ?」
しばらく部屋を調べていると、机の引き出しの中から見慣れない本が出てきた。それは文庫本のように厚いけれど、ただその表紙には全くのタイトルはなく、おそらくノートのようなものに思えた。そんな記憶にない不思議な本を興味本位で開けてみる。すると――
「そっか……そうだったんだ」
開けてみた本には、私に既視感のある物語が
ある日、突然に1人少女は行方を
これはまさに
「これはたぶん……私が作った物語……だよね?」
如何せん記憶が全くなくてその答えに自信がないけれど、状況証拠から見てもそれは間違いないことだろう。そうだと仮定すれば、全ての
「うぅ……こわっ……」
私は鳥肌が立つほどに、自分が恐ろしくてしょうがなかった。夢の世界を夢であるとも気づかないで、普通に生活していたのだから。しかも本来現実の世界を現実だと忘れ、風花の存在を探してしまっていたのだから。のめり込むことが、こんな錯覚を引き起こすなんて思いもよらなかった。私はもう人間としての道を踏み外しているかのようにさえ思えた。だってたぶんきっと、ここまで夢の世界に没入して、現実と夢の境をわからなくなる人なんてそうそういないはず。
「――お姉ちゃん?」
そんな恐怖に怯えている私を
「ん、どうした?」
「あのー……さ……言おうかどうか迷ったんだけど、お姉ちゃんのために言うね。昨日さ、お姉ちゃん帰ってきてからすぐに寝たでしょ?」
たぶん彼女の言う『昨日』とは私の記憶の中で、1回目の
「それがどうかしたの?」
「夕食の時にお姉ちゃん呼び行こうとして部屋を開けたらさ、そしたらちょうどそのタイミングでお姉ちゃんがベッドから起きてきたんだよね。でもすぐに机に向かって何か本みたいなのに文章を書き始めたみたいなんだ。だから私が『夕飯できたよぉー』って声かけたんだけど反応がなくて……」
昨日の、私の記憶にない出来事を事細かに説明していく妹。部屋に来た時から元々そう明るいとは言えなかった表情が、さらに曇って暗くなっていく。もう既に私もなんとなくだが、その時の私が何をしていてどういう状態だったかは見えてきていた。だからこそ、その先の事実を聞くのが恐ろしくてたまらなかった。私が想像しているものと、その先の妹の発言が一致してしまうのが怖くて仕方がないのだ。
「最初は無視してるだけかなって思ったの……だから私はお姉ちゃんのもとまで行って肩を揺さぶって見たんだけど……反応なくて……でも文字を書く手は止めなくて……」
自分でも語るのが怖くなっているのだろう。その怪奇現象を目の当たりにして、そしてそれを今ここで再び思い出してその感覚が呼び戻ってきているような。
「たぶんだけど、あれ……夢遊病かなんかだと思うよ……」
私の願いは
「そっか……教えてくれてありがと」
「うん。でも早めに病院に行ったほうがいいかも。それからちょっとしてお姉ちゃん眠ちゃったんだけど、結局朝まで起きなかったし。いっつも机で寝てるのは体によくないしね」
「「いっつも」?」
「うん、朝ごはんの時にもお姉ちゃん起こしに行ってるけど、そうだなぁー……ここ1週間ぐらいはずっとだよ」
「そうだったんだ……わかった。後でお母さんたちに相談してみる。心配してくれてありがとね」
「ううん、じゃあ私宿題してくるねー」
一体全体、私はこの現実の世界で何があったのだろうか。夢遊病に、現実逃避。そして真実が明らかになってもなお、戻らない私の記憶。頭ではこの世界こそが現実なんだと分かっているけれど、未だにその感覚や実感がない。今の私が推測するのであれば、きっと現実世界で何か、記憶を忘れてしまいたくなるほど嫌なことがあって、それで現実から逃れるために自分の理想の世界を作った……というのが妥当なところだとは思う。でも、1回目の時のクラスのみんなの反応はとても私に何かあったとは思えないそれだった。
まだまだ色々とわからないことは多いけれど、ただ私のするべきことは見つかった。たった1つ。やり残したことがある。それは風花に『別れ』を告げること。ちゃんと私の意思で謝って、お別れを言いたい。あそこは
「お願い。もう一度だけ、もう一度だけでいいから、私を夢の世界へと連れて行って」
例の本を自分のおでこに当て、そう願いを込める。もしかしたら夢を夢だと気づいた時点で、もう夢の世界に飛ぶことはできないかもしれない。そんな不安が私の中にはあった。でも私は信じることが大切だと思う。きっと、きっと私は夢の世界に行けて、最後に風花に会える。そう願って、私は私たちの物語の本を枕のようにして頭をそこに起き、ゆっくりと目を閉じていくのであった。
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