あれは夏の実家の瀬戸家が主催した夏の七歳の誕生日パーティーの会場での出来事だった。自分のために用意された舞台の上でいつものようにお嬢様を演じていた夏はその会場で自分と同じ年くらいの女の子を見かけた。それは夏の知らない、初めて見る顔の女の子だった。

 その女の子の顔を見て、夏はすごく気分が高揚したことを覚えている。

 夏はすぐに舞台の上を駆け出して、その女の子の元まで行った。その女の子が遥だった。

 遥の第一印象はとても綺麗な子だった。まるでお人形さんみたいだと思った。濡れ羽色の黒髪と薄紫色のドレスがとてもよく似合っていた。夏は一瞬でその心を奪われた。

 遥は下を向いていて、なにか考えごとをしているようだった。しかし夏が遥の前に立つと遥はそっと、遠慮がちにその小さな顔を夏に向けた。 

「ごきげんよう」夏は遥にそう声をかけた。

 冷静を装っていたが、内心はひどく緊張していた。心臓はどきどきしていたし、顔も少し赤くなっていたかも知れない。

「ごきげんよう」遥はそう夏に返事をした。美しいソプラノの声だ。

「あの、なにかごようですか?」

 夏がじっと遥のことを観察していると、遥は恥ずかしそうに大きな目を伏せながらそう言った。

「初めまして。私、瀬戸夏といいます」そう言って夏は笑顔で片手を遥に差しだした。

「……初めまして。私は木戸、遥といいます」遥は差し出された手を遠慮がちに握る。

「はるか。とても素敵なお名前ですね」

 夏の言葉が終わると二人の手は離れ離れになった。

 少しの沈黙。

 そのあとで夏は勇気を出して、自分の思いを口にした。

「木戸遥さん」

「はい」

「私と、お友達になってください」

 その言葉を聞いて、遥がきょとんとした顔をする。

 そんな可愛い反応を見て夏が笑う。

 それが今から、ちょうど七年前のお話だった。そのときの遥の顔は、今も夏の中に大切な宝物として残ってる。

 ……たぶん、一生、残ってる。

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