第47話 音無 奏

家に帰りまたいつものようにパソコンを立ち上げて缶ビールを用意し、着替える。


音無さん、嬉しそうだったな。

違う名字だったのに、娘から同じ名字を名乗りたいと言われたら当然か。


だから思う。


巻島と名乗らせてあげようと考えた時、

それは彼女の障害によるこれから先に待ってることやかなでという名前なのに抱えたハンデとの葛藤は計り知れないものだったんだろうな、と。


奏さんは奏さんなりに、

親の名字を名乗れない悲しさも抱えて、

そんな風になってしまった自分のことも責めていて…。


変わろうとする彼女が俺には眩しい。


そんなことを考えていた時にマウスを持つ手が止まる。


───サイト再開の知らせ。


奏さんはとうとう本の感想や雑談で賑わう管理するサイトを再開させた。

知り合うきっかけにもなったサイトだ。

「本の声と僕の声」

あのサイトが再開するのは嬉しい。


すると、メールには続きがあった。


──合わせて、リニューアルの知らせ。

ようやく再開できる運びになり、この機会にリニューアルを行います。

そのリニューアルに伴いまして、

サイト名も変更致します──────


髪型も変わって驚いた。

これも予想できなかったなぁ。


マウスをスライドすると新しいサイトの名前が書かれていた。


「音の無い世界で奏でる言の葉」


鼓動が少し早まる。

人によってはただのタイトル。

人によっては音無 奏という名前を混ぜ込んだタイトル。


俺にとっては……

大切な人が少しでもことで、そう名乗らなかった時間を取り戻したいと思っていることを感じるタイトル。


ビールこぼしそうになった。


なぜか一瞬、

奏さんじゃなく音無さんがよぎった。



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