第35話 店内ではお静かに

「……ぬああああぁぁぁぁ!!」


攻めすぎたことに早くも後悔している。

やっちまった。俺、やっちまいました。


自意識過剰でした。

自惚れてました。

もう、あれです、自惚れ王子です。

タピオカをタピるというなら、うぬるってやつですわ。


奏さんも俺のことを……なんて意識がなきゃあんな封筒からの、追い討ちメールなんかできない。


『店内ではお静かに願います』


こっちは追い討ちでマスターに注意された。


気づいた人も居るかと思いますが、

うぬった挙げ句に、きっちり待ち合わせ場所の喫茶店のいつもの席には来ております。

…しかも朝イチから。

それがかなり恥ずかしくて、奏さんにもマスターにも合わせる顔がない。


待ち合わせしといて合わせる顔がないなんて、トンチかよって話です。


そわそわしながら窓の外を見て、黒髪の長い人を見つけては緊張したり、喫茶店のベルが鳴ってはビクッとしつつもチラッと入り口を見てみたり…。

昼過ぎになり、うぬった自分を責めてみたりしながら時間だけは流れていくわけで。


『あの…』


奏さんかと振り向いたら


『コーヒーお代わりは如何ですか?』


「マスターかーい!」という声にしないツッコミをしつつも


「お願いします」


と、表面上は何とか保つ。いや、耐える。

そもそも男性の声にすら反応してしまうほど、周囲からの関わりを待っている。


───なのに、外は暗くなり始めた。


よくよく考えたら、待ってるとは言ったけど奏さんが来るとは言っていない。

攻めすぎた結果なんて、こんなものかもな。

もう帰ろうかな…なんて思った時だった。


『……あの』


聞き間違うはずはない。

……来てくれた。来てくれた。来てくれた!


振り向いた瞬間だった…。


「……え?」


驚いてコップを倒してしまった。

水が暇潰しに用意していた原稿を濡らした。

でも、慌てたりしない。

だって、白紙なんだもの。




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