そんなこと言ってまだ無理だろ
僕は美智果を守りたいだけで、束縛したい訳じゃない。あの子に依存してる自覚はあるけど、それでいいとも思ってない。
女の子の美智果と男の子だった僕の違いはあるとしても、僕は小学校の四年の時には一人でバスに片道四十分乗って遊びに行ったことがある。小さい子にお遣いさせる番組を見て、『こんな小さい子にできるなら自分はもっとすごいことができる』という意味不明な対抗心にかられたちょっとした冒険のつもりだったのかもしれない。
行先は、以前、住んでいたことがあった町なんだけど、丁度そこには当時僕がはまっていたプラモデルをたくさん置いてある模型屋があって、久しぶりにそこに行きたかったというのもあったと思う。
けっこう何度も行って、五年生の頃には自転車で二時間近くかけて行ったり、バス代がもったいないからっていくつもバス停を歩いて飛ばしたりもした。
一度、一人でとぼとぼ歩いてた時に、警察官に止められたことがある。名前と住所と聞かれて『○○くんじゃないの?』と知らない名前を聞かれた。その時は家出した子と間違われたのかなと思ったけど、今から思うと普通に捜索願の出てる子を探してたのかもしれない。だとしたら、その子はちゃんと見付かったんだろうか。
当時は今より安全だったと考えることもできるかもしれない。でも、警察官に名前を聞かれた時のことを考えてもあの頃から子供が巻き込まれる事件はあっただろうから、本当に安全だったのかは分からない。
あそこまでの無茶をしてほしいとは思わないけれど、親が思ってる以上には子供はいろんなことを考えて実行できるんだと思う。
不安も感じつつ、だけど任せても大丈夫かなと思ってる頃には実は大丈夫だったりするんだろうな。何より、本人が友達と一緒に行きたいって言ってるんだ。『怖くて無理』って言ってる訳じゃないんだから、信じてあげたい。
だけど、それでもし、事故とか事件とかに巻き込まれたら、きっと一生、後悔するんだろうな。
でも、妻の病気のことだってどうして気付いてあげられなかったんだって僕は今でも悔やんでる。妻はもう、三十も過ぎた大人だったのにね。だから何かがあったら、美智果がたとえ何歳でも後悔はするんだと思う。
だったら、本人が自分で『できる』って言うならやらせてみるのも必要なことなんじゃないかな。
『お風呂は一人で入れないのに?』って思ったりするけど、何もかも一律でできるようになる訳じゃないというのもあるんじゃないかな。
きっと、お風呂だってそのうち一人で入れるようになる気がしてる。
『一人で入ってみる』ってあの子が言った時に、『そんなこと言ってまだ無理だろ』と決め付けてしまわないようにしなきゃね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます