僕には全く響かない

最近はかなりマシになったけど、少し前まで美智果はトイレも一人で入るのが怖かったらしかった。さすがに一緒に入るのはスペース的に無理があったものの、その分、トイレのドアを開けっ放しで用を足すのが当たり前だった。一度、怖くてトイレの中で気分が悪くなって倒れたことがある。


だから僕は、いつもトイレの気配が伝わる位置で仕事するようになったんだ。美智果の様子がすぐに分かるように。


それを過保護だと言う人もいると思う。だけど、何度も言うけど事情を知らない人がいくらそんなことを言ったところで僕には全く響かない。


僕は思うんだ。過保護と過干渉は違うって。


保護っていうのは、あくまで安全の為に注意を払うこと。取り返しのつかないことにならないようにする為には注意は払いすぎることはないと僕は思ってる。


一方で干渉っていうのは、その人を自分の思うように操ろうとして関わること。怪我をさせないように口出ししてやりたいことをやらせないのは過保護じゃなくて過干渉だと思うんだ。手出し口出しは保護じゃなくて干渉だって。


僕は、美智果が『一人になるのが怖い』って言うから一人にしないようにしてるだけなんだ。だからあの子が一人でできるって言ってることまで僕が先回りするつもりもない。それは過干渉になると思うから。


今は一人でできないことだって、時間を掛ければそのうちできるようになると思う。僕は『美智果には無理だからお父さんに任せておけばいい』とは言わないようにしてる。できるようになるまでちょっとだけ手助けしてるだけなんだ。


お風呂に入るのだって、トイレのことだって。美智果が『もう一人でできる』って言ってくれたら一人でやってもらうよ。実際、トイレはもう一人でも大丈夫らしいし、ドアも完全じゃないけど閉めるようになってきた。少しだけ開けてるのはまだ不安が残ってるからなんだろうけどさ。


でも、学校ではちゃんとドアを閉めてるそうだから、心配してない。学校でドアを閉めるのは、美智果にとってそれだけ頼れる人はいないっていうことでもあるんだろうな。当然だよ。学校にいるのはみんな他人なんだから。美智果のことをそこまで面倒見なきゃいけない義務もない人なんだから、そこまで頼れるって思う方がどうかしてる。


荷物が重くて一人じゃ持てないから力を貸してほしいっていうのとは違うって僕も思ってる。他人に頼れないから、その分、家に帰ってきて僕に頼るんだ。美智果にとって僕はそれだけ頼れる親だって思ってくれてるんだよね。


だから学校で困ったことがあったら話してくれるんだ。


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