それなりにはやれてると思うんだ
「美智果さんは学校では元気にやってらっしゃると思います。おうちではどうですか?」
個人懇談で担任の先生に会ったときそう言われた。
「家でもまあまあ明るくやってると思います」
正直にそう答える。すごく明るいとか元気とかそういうのとは違う気がする。でもそれなりにはやれてると思うんだ。
「本当に健気にやってらっしゃいますよね。お母さんに会いたいでしょうに……」
担任の先生がそれで声をつまらせた。目に涙がにじんでる。それがどういう涙なのかこの時の僕には良く分からなかった。そこまで考える余裕がなかったんだと思う。しかも変に同情されることに対して過敏になってたのもあるのか。
今ならそこまで気にしない。あまりいい気はしなくても他人はそういうものだと割り切れるようになったし。ただこの頃はまだそうじゃなかった。
それでも、敢えて不愉快になってることは表に出さないようにして、学校でのことは学校に任せた。幸いにも、美智果が通ってる学校は生徒の事情について配慮してくれるところだった。そのおかげで助かってたという部分も少なくないかもしれない。
『子供を甘やかすと大人になってから苦労する』とか『そんなことで社会に出たらやっていけない』とかいう人間がいるけど、それって、加害者側を甘やかしてるだけだよねって僕は思う。パワハラとか職場イジメとかを野放しにする為の理屈だよね。それとも、自分が後輩とか部下をイビりたいからそういうことにしておかないと都合が悪いってことなのかな? 自分がイビったくらいで仕事を辞められたり鬱病になったり自殺したり訴えられたりしたら困るからそういうことにしておきたいのかな?
パワハラや職場イジメの方をなくしていくことで働きやすくなったり生きやすくなったりする筈なのに、どうしてそれに反対するのか、僕には分からない。モンスターカスタマーとかにしたって、そのモンスターカスタマーの方を何とかするべき筈なのに、実際にはそれで苦しめられる方が我慢するべきっていう空気が蔓延してるのが、いろんな問題を生んでるんじゃないのかな。
どれもこれも、誰かを罵ったり威圧したり悪態を吐いたり暴力をふるったりする方が放置されて甘やかされてるから、苦しむことになるんじゃないのかな。『甘やかすな』って言うんなら、罵ったり威圧したり悪態を吐いたり暴力をふるったりする方を甘やかさないようにするべきなんじゃないのかな。『甘やかすな』って言うくらいだから、さぞかし厳しく対処されても平気なんだよね?
僕は、美智果に、後輩や部下をイビるような大人になってほしくないから、丁寧に接することを心掛けてるし学校にもそれを望んでたのだった。
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