友達にヒドイこと言いたくないよ
「私…友達にヒドイこと言いたくないよ……」
ある日、美智果が学校から帰ってくるなりそんなことを言い出した。その様子にただならぬものを感じた僕は、仕事を中断して美智果を膝に座らせた。
そして黙って頭を撫でる。『何があった?』みたいなことは敢えて訊かない。大したことじゃない感じなら気楽に訊けるけど、今回はそういう感じじゃなかったから。
「ヒドイこと言いたくないよ……」
ぽつりと言う感じでまたそう言った美智果に、僕も静かに声を掛ける。
「そうか…そんな風に思う美智果を、お父さんは偉いと思うよ……」
そう言いながら頭を撫でると、美智果はポロポロと涙をこぼし始めた。僕はそっと抱き締める。しばらくそうしてると、ぽつりぽつりと話し始めた。
「…アキちゃんがね…意地悪なこと言ってくるんだ……だから私、思わず『もう、顔も見たくない!』って言っちゃって……ヒドイこと言っちゃった……」
って。
美智果は、意地悪なことを言ってきた友達にヒドイ言い方をしたって後悔してるんだ。普通なら、その意地悪なことを言ってきた友達のことを『許せない』って愚痴ってきても当然かもしれないところを、この子は、それでカッとなってしまって自分もヒドイことを言ってしまったって後悔してるんだ。
どこまで優しいんだろ、この子は……
「美智果……意地悪なことを言ってきた相手にもそんな風に思えるとか、本当にお父さんにとって自慢の娘だよ……偉いな、美智果は……」
ポロポロと涙をこぼしながらしゃくりあげるこの子は、僕にとってかけがえのない宝物だ。だからアドバイスもする。
「意地悪なことを言われたことについては、詳しい内容とかも一緒に先生にちゃんと話した方がいいと思う。そしたら先生の方から注意してもらえる筈だから。美智果の学校はそういう学校だから」
そうなんだ。美智果が通う学校は、意地悪なことを言われただけでも、それがもし看過できないような内容だと判断したらその時点で指導してくれるところだった。他人の尊厳を蔑ろにするようなことをした生徒については、『ただの子供のケンカ』といって放置するんじゃなくて、なにが良くなかったのかっていうのを丁寧に教えてくれる学校だった。
だから嫌な思いをしたことを先生に報告するのは<告げ口>じゃない。それは、他人を傷付けようとする行為をその場で指導する為の機会として捉えてるんだって。<良くないことは良くないこと>っていうのを、早い段階で知ってもらうのが大事なんだって。
意地悪なことを言ったのなら、それがどう意地悪なことなのかを知ってもらうのが必要だってことなんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます