生きるのって大変だな……

世間知らずで男を見る目がなくて、ロクでもない男に次々と引っかかって散々迷惑を掛けられた母に対する恨みはまだ消えないけど、それはそれでもう気にしすぎても仕方ないと思ってるのも事実だった。あの人はあの人なりに懸命だっただけなんだっていうのも頭では分かってる。だから仕返ししようとかそんなことは思ってない。もし、母に介護が必要になったらその時は面倒を見たいとも思ってる。


ただ、一つの考え方、一つも気持ちだけで割り切ってしまえないのも人間っていうものだって今では分かるんだ。だからこそ、母に対してわだかまりを捨てきれない自分のことも受け止めることができてる。


となれば、もし、美智果が僕に対して何か複雑な感情を持っていたとしても、それを受け止めたいと思うんだ。


美智果が寝付いた後で、僕は母と話した。


「もし美智果が、母親を守ってくれなかった僕のことを恨むようなことがあっても、僕はそれを受け入れたいと思ってる。


羽瑠果はるかを守ってあげられなかったことが許せないのは、僕も同じなんだ。だからそのことで美智果が僕を恨んでしまっても、気持ちは分かるからね……」


「…正直、あんたが羽瑠果さんを連れてきて結婚すると言った時は、あんたにそれができるのかすごく不安だった。もちろん立派になってくれたって嬉しかったのもあるけど、あんたはすごく気難しい子だったから、他人と上手くやれるのかって思ってた……


でも、あんたは立派にやってると思うよ。美智果ちゃんを見てると、あんたがどれくらいあの子のことを思ってるか分かる気がする。


私は良い母親じゃなかった。でも、今の美智果ちゃんを育てられるあんたを育てることができたのは、私にとっても自慢なんだよ……」


「…僕は、今でも母さんのことを恨んでる……でも、母さんが僕を生んでくれたから、僕は羽瑠果とも美智果とも出会えた……それについて感謝してるのも本音だよ……」


「…そうだね。私は本当に自分勝手な人間だった。あんたに対しては恨まれて当然のことをしてきたと思う……なのにこんなにいい子に会わせてくれて、私の方こそ感謝してるよ……」


「…生きるのって大変だな……」


「…うん、大変なんだよ。あんたもこれからまだ、もっと大変なことがある。中学、高校、大学。やらなきゃいけないことは山積みだ。頑張らなくちゃね、<お父さん>」


「分かってる……でも、美智果の為だったらやれるよ……」


母とこういう話ができるようになったのは、僕が結婚してからだった。母に対する複雑な気持ちを正直に話せるようになったのも。


結婚して美智果の父親になって、僕は今の僕になったんだ。


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