イヤな事されるの、私だってイヤだもん

オタクとしての拘りが育児に対して発揮されると、これはもう相当強いと思うよ。だって、何ものを犠牲にしてでも好きな対象を守ろうとするんだから。これって、我が子を守ろうとする親の姿勢だよね。


子供って面白い。だって、生きてるんだよ? ゲームのパラメータなんて目じゃないくらいに複雑なアルゴリズムで動いてて、でもこっちの入力にちゃんと反応して、自分のやったことがばっちり反映されるんだ。だからもちろん、自分が間違ったことをしたら子供の言動も怪しくなるんだ。


僕の言動一つ一つで美智果の表情がくるくる変わる。僕がイライラしてる時は明らかに怯えてるし、僕の機嫌がいいときはあの子も安心した様子になる。だから僕はあの子に教えてもらったんだ。


『子供の機嫌が悪いのは、親の機嫌が悪いから』


だって。<子は親の鏡>とはよく言われるけど、昔からそう感じ取ってる人はいたってことなんだろうな。


僕は美智果を叩いたことは殆どない。自分で覚えてる限りだと一回くらいだと思う。ただ、怒鳴ってしまったことは何度かあった。だけどそれを今から思い返してみると、どれも必要のないことだったって分かる。僕が親として未熟だったから上手くできなかっただけだって。だから反省してるし、同じ失敗を繰り返さないように気を付けてる。


僕は美智果を叩いたりしようとは思わない。僕が個人懇談の時に『友達に八つ当たりとかしてないですか?』って訊くのは、あの子が他の子にきつく当たったりせずにいられないような精神状態にあるかどうかを確認する為だ。もしあの子がそんなことをするようなら、それは僕の接し方に問題があるってことになる。


人間はゲームのキャラじゃないけど、でも同時に、外部からの入力に対して反応を返してるっていうのは間違いない。子供だって理由もなくイライラしたりしない。子供がイライラしてるのには、確実にその原因になるものがあるってことだ。


まあ、生理の時は確かに勝手にイライラしてたりするけど、それは体調が悪い時に不機嫌だったりするのと同じだから、男の僕にだってそういう形でなら理解できる。


美智果は、他人に意地悪されてもやり返さない。


『だって、イヤな事されるの、私だってイヤだもん』


自分がされたからって同じことを相手にやりかえすことをせずに、どうすればその問題が解決するのかを、あの子は考えてくれる。それは僕が、小さかった頃の美智果のワガママに対してやったことだ。


子供のワガママって、ある意味では大人に対する意地悪だと思う。その意地悪に対して僕は感情的になることを避けてきた。意地悪されたからってやり返すことをしなかった。


あの子は、それを真似してくれてるんだ。


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