一等分の子宝

黒田真晃

第1話 一等賞になれるように・・・


今、自分でも寝ていることがわかる。

夢でも見ているのだろう。これがレム睡眠というものか・・・

それを認識すると、なおさら気持ちよさを感じる。


今日は、まだ休みのはずだ。いいさ、寝てよう。


その時だ。


俺の目の前に飛行船が向かってくる。まだ夢を見ているようだ。


俺は必死に逃げようとするが・・・体がなかなか後ろに向いてくれない。


そして―――     


パァン!!   


「うわっ!」


思わず声をらして俺はベッドから飛び起きる。


横に目をやると・・・・まだ4歳という、あどけない可愛らしい男の子が

隣に居た。どうやら、膨らませた風船を手ではさんで割ったようだ。


「おじちゃん、おはよぉ。」


「・・・・一等いっとう~~~、何すんだおみゃぁ~わぁ~~~~♥」


俺はその子に怒ろうともせず・・・抱きしめた。そして、おまけにくすぐりの刑を食らわせた。


「きゃははは!あは!」楽しそうに、俺にコチョコチョされたその子は笑う。


「おはよう、一等。もうそんな時間か?まあ、いいや。まずは飯にしよう。」


「うん!」


そう言う俺、有島ありしま慎二郎しんじろうはその子・・・おいの手をひいて、部屋を出ていく。


「ちょっと叔父おじさんは顔洗ってくるから、先に行ってて。」

「うん!」


と、素直に返事をした甥っ子は、階段を手りにつかまりながら、器用に

降りていった。

階段は2歳のころから昇り降りしはじめた。そのころは誰かが見張ってなきゃ

いけなかったのだが、3歳ごろからはもう、ひとりで余裕に昇り降りできるように

なった。成長していたんだなあ・・・叔父さん、誇りに思うよ。


そんなことを思い浮かべながら顔を洗っていると、義姉ねえさんと兄貴の

会話が聞こえた。


一等かずと、ちゃんとしんちゃん起こせたかな?」

「どうせまた変な起こし方したんだろ、はは。」


まことにその通り。でも、ちょっと刺激とスリルがあってそのほうがおもしろい。


洗顔するときにつけたバンダナをはずしながら、兄の健一郎けんいちろう

義理の姉、つまり兄貴の奥さんの菜緒なおさんに挨拶をする。


「これはこれは、兄貴にお義姉ねーさん、おはようございます。」


「よお慎、今うわさしてたところなんだ。」


「やっぱり?俺もそーじゃないかと思ってたよ。で、カワイイいっとーは

どこ?」


その甥っ子は、まだパジャマ姿で食卓テーブルのまわりを歩き回っていた。


「こら、かずと!いい加減にしなさい!早く着替えて!ひとりだけ

お留守番する?」と、母親である義姉さんが言うと、

「やだー!!」


と、甥っ子は大声を出す。甥っ子の名前は一等とかいて、”かずと”と呼ぶ。

だが、俺は甥っ子が生まれた頃から、いろいろあって音読おんよみの”いっとー”と

呼んでいる。名前の由来はもちろん、何でも一等賞になれるように・・・という

願いをこめ、父親である兄貴がつけた名前だ。

も、その想いをこめて、甥っ子の名前を呼んでいる。


「まあまあ義姉さん、僕が着替えさせます・・・なあいっとー、着替えような?」


「うん!」


「はい、バンザイして~・・・・」


するする、と服を脱がすといっとーが裸になっていく。なまめかしい肌が露出する。

このまま抱きしめたい。


「・・・なんであいつ、慎の言うことなら素直に聞くんだ?」


そう不思議がる兄貴のつぶやきをよそに・・・甥っ子の着替えが完了した。


「さ、食べような。いっとー。はみがき済んだ?」

「まだ!」

「じゃあな、おじさんが磨いてやる。ちょっと待ってろ・・・」


・・・・すっかりドタバタしてしまった。

今日は、何があるかというと、家族そろってピクニックだ。

お弁当もたくさん、義姉さんがこしらえた。

その一部のおにぎりは、甥っ子が朝早く起きて、義姉さんの手伝いをして

つくってくれたものだ。悪いけど、義姉さんの作ったものより、いっとーの、

甥っ子の作ってくれたおにぎりのほうが食べるのが楽しみだった。


そして玄関先。

「お、いっとー、靴ちゃんと自分でけるか?」

「うん!」と威勢いせいよく返事をしながら、甥っ子はぐいぐいと自分で靴を引っ張って足にかぶせていく。


「忘れ物ないわね?」と、義姉さん。

戸締とじまりよしっと・・・」と、兄貴。


俺は、リュックサックを背負って、帽子をかぶった甥っ子の手をつなぎ

ながら、兄貴が運転する車まで歩いていく。


「さ、しゅっぱーつ」

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