第70話 ひと時の優しさ
シロが家の中に入ったことを確認すると、マキはわざと音を鳴らしながら鍵を掛けた。
シロは一瞬後ろを振り向いたが、マキが笑顔のままその場から離れようとしないのでシロは仕方なくリビングまで行くことにした。
リビングに着くと、マキが冷蔵庫を開け中を覗いていた。しばらく悩んだ後、いくつかの食材を取り出して料理を始めた。
いつものマキちゃんも手際が良かったが、今はそれ以上に手早い。
少し待っている間に部屋中にいい香りが充満している。数分後、マキちゃんが持ってきた料理はカレーだ。
カレーの上にはゆで卵がスライスされて乗せられている。そしてサラダとデザートの桃も用意されていた。
シロは目を輝かせ、勢いよくカレーに手をつけた。マキちゃんの作ってくれるカレーは少し辛さが強めなのだが、ゆで卵と一緒に食べることによって辛さが調和され、より美味しくなる。
途中で挟む野菜のサラダもまたいい。野菜のシャキシャキ感と添えられているプチトマトの酸味がたまらない。
そしてまたカレーが食べたくなる。このループが止まらない!!
シロが夢中になって食べているのをマキは微笑みながら眺めていた。
「あれ、マキちゃんは食べないの?」
「うーん、少し食べようかと思ってたんだけどシロの食べっぷりを見てたらお腹いっぱいになっちゃって」
「そう?じゃあお代わりもらってもいい?」
「えぇ、もちろんよ」
シロはその後もカレーを食べ続け、三杯目を完食しデザートの桃を頬張っていた。
その光景を見たマキは少し苦笑いを浮かべていた。
「本当、食欲は昔と全く変わってないわね」
「そうかなぁ?昔ならまだいけてた気がするんだけど」
「やめて、あれを思い出させないで・・・って、あなたほっぺたにご飯粒付いてるわよ」
「え、どこどこ?」
「もう、しょうがないわね」
そう言うと、マキは身を乗り出しシロの左頬に付いていたご飯粒を取り、そのまま口に運んだ。
「はい、取れたわよ」
「な、ななななな!どんな取り方してるのよ!!!」
「あら、別に今更恥ずかしがることないじゃない。前なんてもっと頻度が多かったし・・・」
「わー!わー!聞こえない!!」
「・・・ねぇ、シロ。いえ、エリに対して質問をするわ。菜々の事、どう思ってる?」
「昔は大嫌いだったけど、今はそんなに嫌いじゃないかな」
「そ、ならいいわ」
答えを聞くとマキは食器を持ってキッチンに戻って行った。
シロはこの質問の意味を全く理解していなかった。それがまた自分を苦しめることになるとは知らずに・・・
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