第30話 初詣

「シロ、早くしてよ。菜々さんも待ってるんだから」

「も、もう少しだけ待って!」

「もう、夜更かししてたからこうなるのよ」

「お、お待たせ・・・」

「それじゃ、行きましょうか」


マキ達は着物に着替えてから家を出た。これから二人は初詣に向かうところだった。

マンションの外では車に寄りかかりながらスマホを見ている菜々がいた。

菜々は二人が来た事に気がつくとスマホをしまい、二人の元へ歩いて行った。


「二人とも、あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます、菜々さん。ほら、シロも」

「・・・あけましておめでとうございます」

「もう!ちゃんと挨拶しなくちゃダメよ!ただでさえ今日は菜々さんのお誘いで行ける事になったんだし」

「そ、それはそうだけど・・・」

「いいのよ、そんなに気にしなくて。それよりも、二人とも着物がとっても良く似合ってるわね」

「そ、そうですか?」

「えぇ、とっても。・・・あら、マキちゃんその簪は?」

「あ、これシロから貰ったんです。とっても綺麗で、私の宝物なんです!」

「へぇー・・・」


マキの着けている簪を手に取って見た後、菜々はシロの方を見た。

すると、シロは菜々に対してドヤ顔を見せていた。それも、マキに気付かれないように。

菜々は一瞬イラっとしていたが、表情を戻しマキに悟られないように簪を返した。


「とりあえず、車に乗って。神社まで向かうわよ」

「じゃあ私が助手席に・・・」

「私が助手席に座るわ」

「え、シロ?」

「じゃあマキちゃんが後ろね。それでいいかしら?」

「わ、私は構わないけど・・・」

「それじゃ、出発するわよ」


どういう風の吹き回しなのか、菜々さんの隣の席にシロが座っていた。こんな事、今ままであっただろうか?いや、無かった。

ついにシロも菜々さんの人柄の良さに気がついたのかな。いつも機嫌悪そうにするから私がいこうとしたのに、成長したわね。

というマキの考えているような理由でシロは助手席に行った訳では無かった。

シロはマキに聞かれないような小声で菜々に話しかけた。


「ねぇ、初詣が終わったらあなたの家に寄ってもいいかしら?」

「えぇ、構わないけど。何かあるのかしら?」

「あなたにはどうしても一つだけ確認しなくちゃいけない事があるのよ」

「あら、何かしら。怖いわねぇ」


車で向かう事一時間、神社に到着した。菜々も一緒に来るのかと思っていたけれど、車の中で待っていると言ってきたので、シロとマキ二人で行く事になった。

マキはいつもよりとても機嫌が良かったのだが、それと同時に転んだりしないかがシロは心配で仕方がなかった。

シロは悩んだ挙句、マキと手を繋ごうとした。すると、マキはきょとんとした顔でこちらを見てきたが、手を握るととても嬉しそうな表情をしていた。なんだこの可愛い生き物は。

シロはそう思っていたが、これはあくまでマキが転ばないようにするだけ。

そう、決してマキちゃんと手を繋ぎたかったとかそういう訳じゃない・・・!

マキはシロと手を繋ぎながら歩いている事で更に機嫌が良くなったのか、鼻歌まで歌い出した。

周りからはとても中の良い姉妹がいる、みたいな目線で見られなんだかこっちが恥ずかしくなってきてしまった。

この原因を作り出したマキに至っては気分が良くなりすぎて周りのことに何一つ気がついていない。

その後、お賽銭を入れる順番が来るまでは恥ずかしいことを必死で堪えながら並んでいた。

数分ほど待っていると、いつの間にか自分たちに順番が回ってきていた。

あ、マキちゃんがもうお願いし始めてる、私も・・・!

初詣を終えると、二人は手を繋いだまま菜々の元へ戻って来た。

シロは菜々に顔を見られないよう下を向いていたが、それと反対にマキは上機嫌であった。

菜々は絶対に何かあったことを悟ったが、あえて何も言わずそのままマンションに向かった。

一時間車を走らせてマンションに到着した。


「今日はありがとうございました、菜々さん」

「良いのよ、また予定が空いてれば連れて行ってあげる」

「それじゃ、シロ。帰りましょう」

「それなんだけど、シロちゃんがちょっと私の家に寄って行きたいみたいで」

「え!?そ、そうなのシロ?」

「う、うん」

「わかったわ!じゃあ私は先に帰ってるから。二人とも楽しんでね!」


そう言うと、マキは一足先にマンションに戻って行った。マキを見送った後、二人の間に沈黙の時間が流れた。

数分後、何も言わず二人はマンションへ入り、菜々の部屋に入って行った。

なんだかんだでシロは初めて菜々の家に入る。内装はいたってシンプルで私達の家とほぼ何も変わらない。

菜々が用意したお茶を一口飲んだ後、シロは菜々を真っ直ぐ見つめて喋り始めた。


「今までずっと疑問だったのよ、過去にあなたがした事をマキちゃんが何故か忘れてる。私との事は全部覚えているのに、あなたの事は何一つ知らなかった。・・・菜々、私のいない間にマキちゃんに何をしたの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る