空が紡ぐ私の軌跡

 空を眺め始めてから5年が経った。私は21歳になった。彼が出国した年齢と同じ年齢。今でも彼への想いを忘れないように毎日空を眺めている。3年前のあの時より、確かに記憶が薄れている。でも、「想いをあきらめたくない」そんな一心で毎日眺めている。



 今日は真っ赤な夕焼け空が綺麗な日だ。日課のように今日もあの丘に通う。5年前の今日、彼が出国した。

彼は元気にしているだろうか。

背後から私の名前を呼ぶ声がした。


「あかり...?」


聞いたことのあるその声に自分の耳を疑う。

振り返るとそこには肌の色が少し濃くなって、大人になった、でもあの時と変わらない大切な“彼”がいた。


とおるくん...透くんなの...!?」


彼の名前を呼んだ瞬間、鍵がかかって開くことのできなかった記憶の引き出しが急に開いて彼へ抱いていた感情で溢れてしまいそうなほど私の頭の中をいっぱいにした。

彼に会えたことの嬉しさ、生きていて良かったという安堵感、取り戻した感情、全てがごちゃ混ぜになって涙が溢れ出す。


「ずっと信じてたよ、またいつか会えるって...。生きててよかった。」


「実はボランティアをしてる途中に倒れて、頭を強く打って記憶喪失になっていたんだ。」


「もう大丈夫なの!?」


「うん。記憶を取り戻せたから。取り戻して1番に頭に浮かんだのはあかり、君のことだった。愛してる...僕とお付き合いしてください。」


彼と想いが重なっていた、そんな嬉しさで再び涙が流れ出す。


「透くんがいない間ずっとこの気持ちを忘れるのが怖かった。お父さんとお母さんの時みたいに忘れてしまうんじゃないかって。だからね、忘れないために毎日透くんの大好きな空を眺めてた。でもやっぱり、毎日少しずつ忘れていった...。だけどね、透くん、あなたを見た瞬間に全てを思い出した。だから私にも伝えさせて。好きだよ、透くん。」


ずっと伝えたかった言葉を伝えた。


「もう、絶対に、君が記憶を忘れることを怖いと思わないように僕がずっと傍にいる。君が離れて欲しいと言うまで、僕は君の傍をはなれない、それでもいいかな?」


「もちろんだよ...ありがとう...よろしくお願いします...」


嬉し涙が流れる。

彼が優しく、でも力強く私を抱きしめる。私もそれに応えるように彼をぎゅっと抱きしめる。



私はもう、光を掴んで離さない。私はやっと、大切で愛すべき光を掴んだ。それがこんなに幸せなことなんて。


『ありがとう、愛してる。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空が紡ぐ私の軌跡 やなぎ @yanagi77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ