第2話 俺と部長②
「君にやってもれいたいこと、それは…」
俺は今、部長とともに会議室にいる。朝一で呼び出されたのだ。思いつくことといえば先日の失敗。部長の表情はいいとも悪いとも言えず、まっすぐこちらの目を見て真剣な表情である。
この一瞬の間に考えたのは「左遷」の二文字である。いくら新人といえど客先の人間を怒らせ、「二度と御社とは契約しない」とまで言い切られてしまったのだ。ましてその会社はうちの大お得意先。業績悪化を予想するのは容易かった。
「(入社1ヶ月で左遷される新卒は日本でも俺だけだろうなあ)」
などと口にはせず、この一瞬で妄想していた俺は部長の次の言葉で現実に戻った。
「ここに行って占ってきてもらいなさい」
「…は?」
「は?ってなによ。ここに占ってきてもらいなさいと言ってるの!」
そう言って部長が机に出したのはどこかのポスターのようだった。表面には大きく「新装開店!」と書いてあり、なにやらうさんくさい文章がどっさり並べてあった。
「あの有名野球選手○○も絶賛!」
「あの有名女優○○が結婚できたのもこの占いのおかげ!」
「今ならなんと!80%オフ!!!」
…正直目を疑った。まずこのうさんくさいポスターに対してもそうだが、こんなところで占いしてこいという部長の言葉にも耳を疑った。そもそもなんで占われなきゃならんのだ。そりゃ大失敗はしたけど占って「ああ、この前に失敗は運が悪かったから起きたんです」とでも言われれば、俺への慰めにでもなると思ったのだろうか、それとも部長なりの考えが?
そんなことをあれこれ考えていると、部長は俺の疑問に答えるかのように言葉を発した。
「ここに行ってきてほしい理由はただ一つ。ここのオーナーがこの前あなたが失敗した会社の社長令嬢だからよ。つまりご機嫌をとって来なさいと言ってるの」
そうか、ここの店長がこの前の会社の…。理由がわかったため、先程の疑問はいとも簡単に吹っ飛んだ。しかし…
「機嫌を取る、と言っても何をすればいいのでしょうか…」
そう、たかだか先輩のお供として行っただけであの惨状だ。とても機嫌を取ることはできそうにない。
「大丈夫よ。何も新人のあなたに今回の失敗をすべてなすりつけるほど鬼じゃないわ。後日謝罪に行くの。そのときに話しの種にするだけ。余計なことせずに占いされてくればそれでOK」
部長は髪をかきあげながらあっさりと言った。たしかに新人の俺がたかだか占いされにいったところで失敗を挽回できるはずがない。この前の責任を押し付けられるわけじゃないと分かったところで、俺は一安心した。
「それで行くのは今日言ってもらうわ」
「今日ですか!?急ですね…心の準備が」
「何を言ってるの。ただ占ってもらってくればいいって言ってるでしょ!出張扱いにして上げるからさっさと行きなさい!」
そう言って部長は立ち上がったかと思うと、座っていた俺の手を取り立ち上がらせ、肩を2、3回叩いた。緊張のあまり顔を見ていなかったが…部長は笑っていた。新人の失敗に対して嫌な顔をしているとばかり思っていた俺は面食らった。部長なりに気を使ってくれたのだろうか。それは激励のようなものに感じた。失敗したことで申し訳ない気持ちになってオドオドしていたが、部長の一連の言動のおかげか、今は「頑張ろう」という気持ちでいっぱいだった。
部長に見送られ、その占いの館とやらに向け歩みを進めた。この紙によればここから電車で30分ほどのところにあるらしい。自分の失敗を挽回するため、俺は張り切っていた。
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