神剣双娘生贄譚~二者択一の殺意=愛

軽井 空気

プロローグ

「次に挑戦しますのは何者ですか。」


 田舎の祭りだった。

 都会に住んでいる僕にとっては縁があまりない昔懐かしの祭囃子である。

 父方の田舎に受験明けに遊びに来たら伝統の祭りに行き会ったのである。


「ハッハッハー!皆の者ひれ伏すがいい。我こそが草薙 仁くさなぎ じん。この、伝説の霊剣を抜きて天下に覇を唱える者なりぃ。者ども、頭がたぁかーい~~。」


 なんて、恰好いいことが言えるわけがないので、向けられるマイクに、

「ども、草薙 仁です。」

 と、ぼそぼそと自己紹介をした。


 そもそもこんなことをしなければならないことになったのはなぜか、を語る前に、そもそも僕が何をしているかを説明しなければならないだろう。


 『選ばれたものにしか抜けない岩に刺さった霊剣を抜いてみよう。』と言うイベントに参加しているのだ。


 おい、笑えよ。

 今どき「どこのエクスカリバーだよ。」とか、「そんなものに参加するとか中二病ですか?」とか笑いたいんだろ。


 いえ、「選定の剣はエクスカリバーではなくカリバーンです。」とか、マジレスを期待したいしていたわけではなくてね、……てぇめら笑ってんじゃねぇよ。


 なにはともあれ、僕が変なイベントに参加したのは高校受験に成功したばかりのことだ。

 まぁ、簡単に言えば父親の実家に受験の合格報告もかねて旅行に来たのが切っ掛けだ。

 ちなみに、父親は失踪している。その後、母と妹との3人で暮らしていたが申し訳が無いのか父親の実家は何かと援助してくれていた。

 今年に入って母が亡くなりこちらに住まないかと誘われはしたが、全寮制の学校に合格していたので辞退するつもりだった、が一度顔を見せてお礼を言いたかったのだ。

 ちなみに妹は僕についてきて付属の学校に転校、寮で二人暮らしの予定である。

 場所は奈良県の南部の田舎町だった。

 何があるかと言えば自然があるばかりだ。

 美味い空気、美味いアユ、美味いアマゴ。

 そして美味い話。(笑)

 

 この町には古くからの伝承があった。


 詳しい話は眠かったので割愛するが、古事記か日本書紀かんかなんかで語られる痴話喧嘩にたんを発する逸話がここにあり、この祭りはその逸話に因んだものらしい。


曰く、

「選定の剣抜きし者表られし時、黄泉より命ありしものを平らげる災いが現れるであろう。しかし、その災いは剣の霊験により払われ民に平穏もたらさん。そして、剣に選ばれしものはその子孫を多く残して民を守るだろう。」


「だったら抜こうとしなければいいだろうが!」


 なんて思いもするが、もちろん僕の意見は無視された。

 なんでも、町おこしにはそうゆう曰くがあるほうが良かっただの、自分は伝承は信じてないから責任は持たんなど馬鹿らしい話が並んでいた。

 これが僕に関係あるのかと言われれば……ある。

 僕はこの剣を抜いてしまったのだ。


 まぁ、けし掛けたおじさんにしても遊び半分だって言ってたのだが、後で逃げやがった。

 どこが冗談だ。かなりマジになってないか皆。

 観光客などは僕のポーズにシャッターを切っているのにである。

 神社の拝殿の前に護摩壇がたかれて、その前に御神体の岩と剣が置かれて挑戦者が並んでいた。

 その衆人環視の前だった。

 僕は挑戦する気はなかったが、妹が「インスタ映えに生かせるじゃん。」てなわけでチャレンジ&ゴー。で、見事に抜いてみました。


 その姿はさながら選定の剣を抜いたアーサー王であっただろうか。


 はたまた、ゴルディアスの結び目を切ったアレキサンダーだったろうか。


 個人的には映画、『サタデー・ナイト・フィバー』の決めポーズだったのだが。


「きゃー、お兄ちゃんまるで似合ってないマイコーみたい。」

 似合ってないのにマイコーみたいとはこれ如何に。

 あっ、舞子のことか。

 なんて現実逃避していたのに、それがこんなことになるなんて。


「復活せしうる鬼神を封じるには霊剣の真の力を解き放つしかありません。」


 霊剣を抜いてしまった僕は神社の奥に連れていかれた。

 ぶっちゃけ何畳あるか分からない大座敷の上座にすわらされた。

 そこでやんごとなき霊剣の由来などを聞かされたのだが、正直眠い。

 正直なかったことにできませんか?

 無理。

 さようですか。


「霊剣を扱えるのは、それを抜くことができた者だけ。そして、霊剣の力を目覚めさせることができるのは決められた血筋に生まれた双子、その内の片方を霊剣をもって担い手が斬ることです。


 そんなアホな。

 そんな説明を聞かされれば眠気も吹っ飛ぶってもんだ。

 なに。

 僕に人を斬れと。

 それも双子の内片方を自分で選んで切らなければならない。……だと。

 そんなことは納得できるはずがない。っと、断るつもりでいた。


「この者達がその贄となる娘たちで御座います。」

 村の長老が連れて来た二人の娘にボクは目をむいた。

 豪華な障子が両開きになった先に二人の女性が三つ指をついて控えていた。

―――問題は、

 二人は僕のよく知っている二人だった。

 いや、白を基調とした巫女服の様な衣装に身を包んだ二人は僕の知っている二人であって、僕の知らない二人であった。


「この二人の内、一人を生贄としてその剣で斬ってください。さすれば、その剣は鬼神を斬ることができます。その剣で鬼神を斬ってくだされば人の世は安泰。いかなる褒美も思うままでございます。残った片割れも好きにしてかまいません。どうか良しなに。」


 僕は思った。

 

「これ、絶対ハズレくじだ。」

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