村のために みんなのために その4
その騒ぎの始まりは、あたし達が東の森に遊びに行った次の日からだったらしい。
大人達の会話の中でとどまっていた話題が、あたし達の耳に届くまで日数がかかるのはよくあること。
その話があたし達に届いたのは、家族みんな揃った晩ご飯のに、お父さんがあたし達に聞いてきた時だった。
「なぁみんな。……大人達が動物とかを狩りに行く場所って……分かってるよな?」
それにあたしの兄さん達、姉さん達がすぐに答えた。
「ん? そりゃもちろん。な? みんな」
「そりゃそうだよ。だって、大人達の弓矢に当たるかもしれない危険な場所だから、ね」
「動物とか魔物とかの方が危ないよー」
「それもそうか」
父さんは、何か考え込むように「ふむ」と鼻息で息を吐くような返事をした。
「東の森に、最近遊びに出かけたか?」
あたしが倒木を粉砕した日、ということらしい。
「あたしとマッキーの二人で、他の友達と遊びに行ったよ? 兄さんと姉さんたちは、お家の手伝いしてたよね?」
すぐ上の姉がそう言った。
それに間違いはない。
あたしも普通に頷いた。
「そうか……」
父さんはやや下を向いて、おでこに指をあてた。
何か考え込んでるらしいのは分かる。
「どうしたの? 父さん。そんなことを聞いて」
一番上の兄が尋ねる。
父さんは、重い口、というほどでもないが、言いづらそうにしているのは確かだ。
うぅん、と言いながら話し始めた。
「東の森……丘があるのは分かるよな?」
という問いに対して。
「森じゃなかったら、あそこは丘になるよな」
「森でも丘は丘だよな」
兄や姉たちはそんなことを言う。
みんな、そこを遊び場の一つにしていた。
分からないはずはない、ということだ。
「上る手前に獣道があるんだが、知ってるよな?」
「獣道は……知らないな。でも狩り場なんだよね? 俺もそろそろ父さんと一緒に仕事できそうな年になったから、そのうち底に連れてってくれるんだろ? 父さん」
一番上の兄がそう答えた。
大人になれば、一緒に仕事をすることになる。
突然、一緒に仕事に出る、なんて言われてもできないことだってある。
一番上の兄と姉は、そんなことを突然言われても対応できるように、遊びの時間を減らして仕事の手伝いの時間を増やし、仕事の訓練の時間に割り当てることが多くなった。。
「じゃあ……その獣道の先が、行き止まりになってしまったのは……」
「お父さん、大人の仕事場だからそこに行っちゃだめって、ずーっと前から言われてたよ? その先は行き止まりなのか広場とかあるのか、とかって、あたしは全然知らないけど?」
と、答えてみた。
父さんは、それもそうだな、と口ごもった。
「道を塞いでたモノがな、壊されててな」
父さんの話しぶりは、誰かが口を滑らすのを期待している、とあたしは何となく思った。
「行き止まりって、昔から? そこを仕事場にしてたの? それともそこを通り過ぎてた先で仕事してたの?」
子供は立ち入り禁止だけど、それは危険な場所だから。
子供達には秘密の場所にしている、ということじゃない。
だから父さんは、あたし達の質問には普通に答えてくれた。
「大木が倒れててな。梯子を立てて行き来することもできたが、獲物をしとめたらそれを持ち上げる必要がある。倒木はどこかに運び出すべき、という話になってな」
途中から、立ち話と内容がかぶったから、余計な気を遣わずに済んで助かった。
「それで、誰がいつ、どのように砕いてくれたのかって話になってな。他の家の子らから話を聞いた家族によれば、父さんたちがそれを発見したのは、お前たちが遊びに行った次の日ってことが分かってな」
「それで?」
「お前たちの話も、子供らの話に食い違いは全くなかったからな。どこかおかしな様子はなかったか? と思ってな」
一緒に遊びに行った子供達は、大木があった場所がどこかすら知らず、森では特におかしいことはなかった、と聞かされたとか。
「一緒に遊びに行った、というなら、その子らには気付かなかったおかしな点を、お前達なら見つけられたかな、と思ってな」
あたし達を疑っているわけではなさそうだった。
と言うか、疑うというより、大木を砕いた正体を知りたいだけのようだった。
「岩の洞窟の件といい、今回の大木の件といい、父さんたち……村のために何者かがそういうことをしてくれている、と思ってる人もいる」
うんうん。
あたしはみんなに喜んでもらいたくてやったんだから、そう思われるとこっちもうれしい。
けど、誰かだけが望んでいることを叶えることはしない。
みんな、全員が、そしてあたしも喜べることをしたい。
……みんなが喜んで、あたしがそれを知らないでいるのは……もうごめんだから。
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