謎の脱毛症 魔物との戦闘はこれからだ!

 有り得ないと思うが、防具の魔力補給のために魔球を持っていくことにする。

 メイスの店に向かうルート上に、地下ダンジョンの入り口が二か所ある。

 最初は一つだけだったのだが、それだけだと、地下で魔物に襲われた時に地上に逃げるルートを塞がれると、下への袋小路に追い詰められてしまう。

 ということで、のちにモーナーが作った二つ目。

 岩盤をよくもまぁ避けて作れたものだ、とは思う。

 外は思いのほか、明るい。

 月明りが煌々と輝き、地上に届くその光度も、火を灯さずとも余裕で歩ける。

 が、それが厄介な状況になってる。

 予想通り、地面の凸凹の隙間に隠れているその数……二十三体。

 拳の炎をでかくすれば、瞬殺間違いなし。

 だが、地面は岩肌ばかりじゃない。

 草も生えてるし、木の何本かも生えている。

 燃え移ったりしてみろ。村中火の海になる可能性もある。

 樹木の中には、油分がたっぷり含まれれているものもあるらしいしな。


「火は危険か。電撃は……火を生み出しかねないな。水……うん。水を流して窪みから奴らを浮かせて、出てきたところで火……はだめだったな。踏みつぶして終わりにするか」


 窪みに突っ込める何かで押し潰す、という手もあるが狭い所に突っ込める物といったら限られてる。

 そんな窪み、穴に突っ込める物は細くないと効果はない。

 が、細けりゃ脆い。押し当てて潰せるかどうか。敵だって、危険が迫ってきたら逃げ出すに違いない。

 仕留めるには、こっちの舞台に引っ張り出してから、がいい。


「……待てよ? 水圧で潰せねぇかな? 試してみるか」


 位置は、その二つ目の入り口を越えて、そことメイスの店の中間あたり。

 こっちの集団はすべて、俺らの所にいる連中と違って、巣の中に籠ってる。

 だがよく考えてみれば、ここは土の上だよな。

 ミアーノは、こいつらは岩盤の窪みに住むっつってたが……。ま、どうでもいい話か。


「動かないことと、住処に蓋がされてないことを確認して……どうだっ!」


 その辺りにだけ土砂降りになるような水を、右腕の龍の口から吐き出させる。

 技名をつけるのを忘れてたことと、その名を叫べなかったことを後悔したのは、ケマムシが全滅したあとだった。


「……くそ……。三つくらいいるって言ってた集団は……この二つだけだったか」


 念のため、メイスの店にまで足を運んでみた。

 そしてその向こうの森の方にまで気配の探索をしてみるが……。


「いない。ケマムシ、全滅、か」


 せっかくだ。その死体を見てみるか。

 水に浮かぶ黒い粒。

 ゴマより少し大きい程度。

 色は黒。

 手足は四本。六本じゃないんだ。

 ……触るのは止めとくか。

 体毛を食う魔物。

 だが、体毛と一言で言っても、その個所によっては……。


「ばっちいとこの毛を食ってたりすると……不潔だったりするよな……」


 よく病原菌とか持ってないもんだ。

 持ってたら、伝染病とかが一気に広まるだろうに。

 そんな話は今まで聞いたこともない。

 ま、未知の生物には、用心するべきってこった。

 とにかくこれで、ようやく安心して眠れる。

 月の明るさを感じながら、ねぐらへと帰るとするか。

 そろそろ日が変わる頃。


「汗はかいちゃいないが、一っ風呂浴びてから寝るってのも悪くないかなぁ。でも血行が良くなって、目が覚めちまうかな……うーむ……」


 うとうとしながら湯船に浸かり、風呂から上がって布団に潜り込むまでその眠気を維持したい。

 が、結構距離があるし、歩かにゃならん。

 ましてやこの場からだと、睡眠時間がかなり削られる。

 このまますぐに寝る方がいいか。

 それにしても。

 日中は賑やかな店の前。

 ここは店からかなり離れてはいるが、それでも虫の音がかすかに聞こえるくらいの静寂な今現在とは、えらくその様子が違うもんだ。

 その虫の音も、土や砂利、草を踏む音を立てれば、その付近は静かになる。

 いろんな生き物がいるものだ。

 普段目にする動物。

 危険極まりない魔物。

 虫や、それに匹敵するほどの弱さを持つ魔物までいる。

 俺が生まれ育った世界とは全く違う構造の世界。

 その二つの世界を比べることができるのは、この世界では俺一人……なんだろうか。

 何か感慨深い……などと、のほほんと考え事をしてる場合じゃない。

 地下ダンジョンの入り口二つを通り過ぎたが、店までにはまだほど遠い地点。

 全身に鳥肌が立つ。

 まさか……。


「よりにもよってこのタイミング。しかもこんな時間に……魔物の泉現象発生の気配だと?!」


 その場所は地下ダンジョンの深いところ。

 底から、ではなさそうだが、入り口に近いところでもない。

 が、今から仲間を呼びに行ってここに戻ってきた時には、奴らはまだ地下にいるとは限らない。

 奴らのコンパスがでかけりゃ地上に出るのも苦じゃないだろう。

 地上に出たら被害甚大。

 なんせ村人みんな夢の中だ。

 地下で大人しくしてもらわなきゃ困る。

 が、そうもいかないだろう。


「そうだ通話機っ! ……は……部屋の中だ……」


 俺が布団にいないことに気付いたサミーがこっちにやってくるようなことでもない限り、援軍の期待はできない。

 打てる手段は、両手足の防具。そして……。


「用心はするものだ。数々の魔球で……何とかするしか……」


 この防具、こんな時に役に立ってもらわなきゃ話にならん。

 シアンの善意に価値がなくなる。

 そんなもんを俺にくれて、期待した俺がバカだったってことだ。

 死んだら化けて出てやるぜ? シアンよお!

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