長い立ち話 補強完了、かな?

 その日の晩飯時。


「っていうことがあったんだよー」

「珍しいわね。召喚魔法を使わない限り、他の世界からやってくるもんじゃないの?」


 シアンを見送った時のことを言う前に、テンちゃんの口が開いた。

 楽しい話が好きなテンちゃんの話は止まらない。

 まぁそれで場が和やかになるってんなら別に構わんけど。


「でも、まさか一緒に帰ろう、なんて言われてたなんて思いもしなかったね」

「うんうん。ってことは、同じ所から来たってことだよね」

「そう言えば、君付けで呼んでたわよね。知り合いってこと?」

「一緒に帰ろうとか何とか言ってたね」


 あ。

 おい、こら。


「え?!」

「帰っちゃうんですか?!」

「ホントなの?!」

「うそだろお?!」

「ずっといるのよね?!」

「おいおい、ホントかよお」

「イナクナルノ?」


 大騒ぎ。

 余計な事言ってんじゃねぇよ。

 こうなること想像できるだろうに。


「うるさい黙れ。おれはずっとここにいるっての。帰る気なんか全然ねぇから心配すんな」

「あれ? そう言えば、話し方が戻ってるね」

「あ、ほんとだ。国王のシアンにだって、あんな丁寧な言葉遣いしてないのにね」


 また余計なことを。


「あいつはあいつでしつこかったからな。きちんと言わなきゃ伝わらねぇと思ったし」


 会話が成立しない相手が多すぎる。

 が、言うことを聞かない奴もいるが、それはこっちの話を聞いた上で、それを無視した上で別の話をしてくる奴ら。

 つまり、こちらの話を聞かない奴の方が少ないっつーことだ。

 ……考えてみりゃ、俺の主張を聞いた上で自分の都合のいいようにするってほうが一癖も二癖もあるんだろうが……。


「でも、敬語を使うほどの他人行儀な知り合いってことよね? それに、アラタの価値が分かる人とも思えない。でも自分の世界に戻ると、その価値も消えちゃうんじゃない? 勿体ないわよね」


 俺が本来いなきゃならない世界での俺と、俺にプラスアルファの能力がくっついたことが前提の世界での俺。

 そりゃ後者の方が、俺にとっちゃお得感が格段に上。それが目当てでここにいる、って気持ちもないこともなない。

 けど、そんな世界が存在していて、その世界で生活ができるんだから、俺の世界よりもこっちの方がいいと思えるのは当たり前。目的がないまま、選択肢が出てくる場面では毎回苦しい方ばかり選んで進むのは、間違いなく破滅願望の持ち主だろうから。

 何かを生み出し、作り出すことができるなら、それで誰かが喜んでくれるなら、そっちを選ぶ意義はでかいはずだ。


「デモ、ソノボウグモモラエタシ、キョウハイイヒダッタナ、アラタ」


 ……まぁ、それは否定しない。

 いい事ばかりじゃなかったがな。

 疲れることの方が多かった?

 だが、ンーゴの言う通り、意義ある考えさせられることがあったという意味ではその通りかもしれん。

 思いや言葉があっても相手に伝わらないことがある。

 いくら同じことを繰り返して喋ってもそれが伝わらないもんだから、諦めたり皮肉になったりする。

 理解しようとする気持ちが相手にないなら論外だが。

 けどその気持ちを伝えるには、思いを分かってもらうためには……。


「でもお、アラタにしてはあ、珍しかったなあ」

「何がです? モーナーさん」

「シアンにい、防具の提供をお、押し切られてえ」

「ダネ」

「そのアラタと同郷の人にい、最後まで言い聞かせてえ」

「おう、そういやそうだよな。途中で投げ出すイメージしかねぇや。あはは」


 アハハじゃねぇだろ、ミアーノ!

 ……だが、この防具を俺に差し出してきたのは、シアンが俺に対する思いがその理由。

 それは、自分の目に届かない所で俺が危機に陥ったら、という心配。

 つまり、俺への頼りなさ。

 そして、防具を完成させるほど、その思いは強かった。

 けど俺は、何かなしじゃこの世界では生きていけないってのが嫌だった。

 その何かが、毎回俺の利になることをしてくれるとは限らないからな。

 だから、頼りになるものなしで生きていくことができなけりゃ、この世界での生活は難しいとも思ってた。

 魔球は売買によって手に入れることができる。

 作った者の意志が、たとえ俺に売るつもりがなかったとしてもだ。

 そういう意味では、魔球は信頼できた。

 だからこの防具はどうかと思った。

 が、まるで自分に意思があるような機能がこの防具にはついていた。

 それだけシアンがしてくれた心配は口先ばかりじゃなく、本気だったってことだ。

 俺はというと、磯貝は口先だけにしか聞こえなかったようだ。

 俺の思いが本気とは思えず、そう思ってもらうには、それだけの力が足りなかった。

 まぁあいつは、端から俺の話を聞く気はなさそうだった、ってことはあるにせよ……。

 とりあえず、この防具を受け取ったことで、俺が本気でこの世界に居続けることを、こいつらには分かってもらえたら、とは思う。


「ところでアラタ」

「どうした? ヨウミ」

「この防具、結局いくらで買い取ったことにしたの?」

「あ……」

「ん?」


 金、払ってなかった。

 ……プライスレス、ってことで……いいかなぁ……。

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