例のブツが行方不明 その2

 いや、ちょっと待て。

 魔物が脱走する話を聞きだすだけでこんなに期間がかかるものなのか?

 そんなわきゃねぇだろう。

 となりゃ……。


「お前ら、その店長とやらから話聞いた後は?」

「まぁ、ちょいと追跡調査してみたんだ」

「隠れようとはしねぇ魔物探しは、意外と楽なんだよな」

「そうそう。ましてや目標は希少種だ。よく見る種族の魔物とかなら、いつの間にか別の個体を追っかけてたりするけどよ」

「俺達の本領発揮ってとこかな」


 なんとまぁ。

 店長に釘さして、それで終わりと思ってたらば。


「そんな……私達とその魔物との繋がりが、はっきりあるとも言えないというのに……」

「あー、別にあんたらのために動いたわけじゃねぇよ? とっ捕まえられたら高額で引き取ってもらえるかもなー、とか思ってたし」

「下心丸出しだったよな、お前。俺なんか、住民に怪我させるかもしれねぇから守ってやんねぇとってよぉ」

「カッコつけてんじゃねぇよ。ま、カッコつけたところで、田畑を荒らすかも分からん魔物を、被害を未然に防ぐために動き回った俺にゃあ敵わねぇだろうがよぉ。……ま、そういうこった。リースナーさんが気にするこっちゃねぇよ。もっとも捕まえられたら、まずはあんたんところに連れてきて、それからどうするか決めるつもりだっけどよ?」


 野郎どものツンデレは……。

 まぁ、ちょっとはかっこいいかな?


「まぁそんな武勇伝よりも、その魔物の足取りはどうなった?」

「あぁ、まず人里離れた場所が好みのようだ。とは言え、餌は間違いなく人里に近い場所……今こいつが言ったように、田畑、果樹園何かに出没する可能性は高いってんでな。警戒も兼ねて回ってみたが……足取りはちょこちょこつかめちゃいたが、俺達は誰もその魔物の姿を見ちゃいねぇ」

「最近の目撃情報はどこなんだよ?」


 と思わず聞いて失敗した。

 全国地図、世界地図も頭に入ってねぇや。

 勉強しねぇとダメ、かなぁ。


「方向音痴のアラタにも分かるように説明してやるよ。この国の首都、ミルダ市は知ってるよな? 戴冠式が行われたところだ」


 それはもちろん。


「このサキワ村からミルダ市の方を見て、その首都の向こう側、反対側の隣のでかい市がアースター市。その向こう側の隣の村がラッカル村。リースナーさんらが住んでた村な?」


 それは分かる。


「で、ガンジュウが逃亡した先は、一番新しい目撃情報によれば、ミルダを越えてこっち側に移動してる。そこから先はどう動いたかは分からん。しかも一か月くらい前の話だな。そこら辺をうろついてるか、別の方に向かって移動してるか……」

「移動先は分からない、が移動できる場所なら限られてる」


 なんじゃそりゃ。

 言ってる意味が分からねえ。


「二か月前か? 全国の、特に村中心に、農作物を食い荒らす魔物が現れた、っつーことで注意報が出たんだよな」

「ここでもやってたんじゃねぇの? 槍衾設置の推奨」


 え?

 あ……。

 そう言えば手伝わされた。

 このガンジュウとやらの被害を恐れてたのか!


「あ、ああ、そうだった。あんなもん作らされて、移動の手伝いさせられた。結構重労働だった!」

「それは新の体力不足なんじゃねぇの?」


 反論できない意見を言われてもな。


「まぁ俺達の調査とリースナーさんからの証言で、まとめてみると……農作物の被害があちこちで出ている。泉現象の魔物じゃないし、神出鬼没の動きを見せてる。だから住民、国民一丸となって対策に当たれってことだったが、その魔物の正体は掴めてねぇ。ガンジュウってことが判明した、ということだな」

「ああ。そして……俺達がここまで来る途中の市町村を見て周ったが、どこも槍衾の対策をしっかりとられていた。つまりリースナーさんがガンジュウと対面できる場所と言えば、居住地の外に絞られるってことになるが」

「魔物どもの生息区域もその中に入る。だがその区域の方が居住地よりも広いと思うんだが……」


 あ……。

 忘れてた。

 確かに俺は、村の連中と一緒に槍衾を作り、設置する作業に手伝った。

 だがそれは……。


「いや……ここもその対象内だ」

「え?」

「なんだそりゃ?」

「どういうことよ、アラタ」


 この村でとった対策は、村を守るための配置じゃなかった。


「……農畜産物とそれを生産する会社、そして村民の生活区域を守る対策だった。ここら辺には置いてない」

「おいおい」

「……アラタ、村八分か?」


 嫌がらせをされてる実感はねぇよ?

 村の連中を特別に擁護する気はねぇが、敵対感情もねぇし。

 つーか、誰がボッチだゴルァ!


「見ての通り、ここは雑草伸び放題の荒れ地だぜ? ここに被害が起きても、村総出の事業に損害はねぇってことだよ」


 ここで配置された槍衾の範囲は、村の範囲よりも当然狭い。

 が、その配置には穴はない。

 ここが守備の範囲外ってだけの話だ。

 もっとも、親と思われるリースナー母子に来るだろうから、村に被害を与えるつもりはないんだろうが……。

 ま、こっちも防衛する必要はあるかもな。

 店の、じゃねぇ。

 そんなに硬くて、しかも突進に速さがあるなら、リースナーに駆け寄っただけで圧殺されるんじゃねぇの?

 卵生の誕生に立ち会ったことがあるってば、サミーだけだな。

 生まれてすぐに懐いてくれた。

 だから人間に対する力加減とかも自然に覚えられたんだろうな。

 けどそのガンジュウはそうじゃねぇ。


「ま、こっちはこっちでそれなりに守りの態勢は作っとかにゃなぁ」

「な、なんかすいません。私達のために……」

「……別に二人のためじゃねぇよ。温泉を破壊されたら、この村、水没とまではいかねぇが、農作物が台無しになっちまうかもしんねぇからよ」


 まだ、何つーかこう……遠慮がち、なのかね?

 施設を壊さない限り、好き勝手にされても俺は文句は言わねぇんだけどな。


「アラタ」

「ん? 何だよ」

「やっぱ、アラタってツンデレなのな」


 うるせーよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る