仕事なら、米の選別以外はしたくねぇんだが みんなが、痒いところに手が届いたってことで
「タオルの貸し出しぃ? 無理に決まってんだろ」
「何でよ? 貸し出し料金で収入が増えて、いいことづくめじゃねぇの?」
「ドーセンとこにだってタオルぐれぇ売ってるだろ。こっちでも売り始めたら、ドーセンとこが損するじゃねぇか。そしたら商売敵になって、目の敵にされちまうわ」
行商時代から心掛けてることがある。
その一つが、同業の商売の邪魔をしない、だ。
シアンのおかげで、いろんな意味で俺達が標的にされることはなくなった。
だが、その威を借りて好き放題してちゃ、それこそまるっきり悪役じゃねぇか。
褒められたもんじゃねぇ。
「あぁ、それは心配ないわ。ドーセンさんの所に行って聞いてきたもの」
「ドーセンの所に行ってきた?」
根回しでもしてきたっつーのか?
こっちが首を縦に振らなきゃ、何の意味もねぇ行動じゃねぇか。
「ドーセンさんの所からタオルを仕入れて、ドーセンさんのとこより高く売ること。それならこっちの売り上げには響かないだろう、だって」
そりゃまぁ……同じ物を違う値段で売ったら……安い方が売れるに決まってる。
ましてや、ちょっと歩けばその安い物を買えるってんなら、誰だってそっちに行くだろう。
これが隣町の店でだったら、往復する時間に労力を考えれば……値段が倍くらいの高値にしても売れるだろう。
その労力がほとんどない。時間もほとんどかからないなら……ドーセンの品の方が売れるはずだ。
それに、こっちの品はドーセンから定価で買い取るってことでもあるし……。
だが……。
「無理だわ」
「どうして? そんな商売してほしくないって人はいないわよ? そりゃその品物が売れないなら、仕入れた分だけ損はするだろうけど」
「いや、そういう問題じゃなくてな」
「じゃどういうこと?」
「誰がするんだよ。人員が足りねぇよ。いたとしても給料どうするんだよ。おにぎりの店の儲けをこっちに回す気はねぇぞ?」
間違いなく経営が破綻する。
入浴料を取ってたらそれを給与に回すことはできるだろうが、そんなことをする気はない。
命の危険を何とか遠ざけて、心行くまでゆったりできる場所になってるはずだ。
そこで懐具合を心配するようなことになったら、料金が気になる奴も出てくるだろう。
「あ、あの……ちょっとよろしいでしょうか……」
「ん? えーと、別に気にしてなかったんだがアラタ、このご婦人は?」
いや、よろしいんだけどさ。
あんたがここに来た経緯を説明するとなると、かなり長くなるぞ?
どこを端折ったらいいか分かんねぇしよ。
つまり。
「あー、説明面倒くせぇ。だから却下。で……何かあったんか?」
ゲンオウ達を放置一択!
「い、いえ、その……こう思ったものですから……」
「ま、言うだけならタダだ。どんなこと?」
「そのタオルをこちらで数量限定して売ったらどうでしょう? 売り切れになったら、そのドーセンさんて人の店を宣伝する、というのは。仕入れる数も限定されますから、支出も収入も計算できると思います。人を雇うなら、給与の額も計算すれば、一枚の値段も自ずと……」
なるほど。
それなら収支計算する手間も省ける。
間違いなく毎日売り切れる決まった枚数を売るだけでいいもんな。
そして儲けが売り子の給料。
さらにそして、おにぎりの店や集団戦の訓練の収入とはまた別の部門とする、と。
つまり、売り子が独自でそこで経営すりゃいいんだ。
……結局問題は……。
「いい案だが……人手がない。足りないんじゃなくて、ない。おにぎりの店をしてる俺の手を離れてほしい仕事だ。この仕事をずっと続けたい、経営をずっと続けたいってんなら大歓迎だし、後継者がいるならいつかはそいつに代替わりできるってンナラその時期に辞めるなら問題ないし」
「冒険者業ができなくなった連中がやれる仕事じゃねぇしなぁ」
「そうね。あまりに収入が格段に下になっちゃう。生活できるのがやっとって感じよね」
「あの、私にやらせてもらえませんか?」
「え?」
へ?
まさかの立候補?
「えーと……リースナーさん? あんたがここで販売してくれる、の?」
「はい。今までは何の仕事もなく、何も買えない生活でした。やらせてくれる仕事も見つけられず、見つからず。でももしここで仕事をさせもらえるなら、少しでも収入があるなら、この子に、食べたいだけ食べさせてあげられるし……」
願ってもないことだ。
その仕事を途中で嫌になっても、すぐには辞められないだろう。
寝泊りができる場所も兼ねた売り場を作りゃ、今までの環境よりはかなり恵まれてると思えるに違いないだろうしな。
「うん……なら……これも縁だ。やってみるんなら、辞める時以外はこっちに何だかんだと許可を伺う必要ねぇから。あと、入浴料は無料のままにすることと、ドーセンとこの商売の邪魔はしないこと。俺から出す指示はこれくらいか? まぁ何かに気付いたらその時々に応じて指示出すから」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
まさかこーゆーことで人材が見つかるとはなー。
けどヨウミ達とは一線を画すことになるだろうな。
「ところでアラタ」
「何だよ、ゲンオウ」
「このご婦人はどちらさん?」
「……説明、面倒くせぇ、っつったろ?」
※※※※※ ※※※※※
で、半月ほど経った。
リースナー母子とドーセンとの間でこんなやりとりが……。
「あー……しばらく様子見てたが、タオルの売れ行きは、確かに今までよりもかなり上がった。おそらくこの後も続くんじゃねぇか? リースナーさんっつったか? あんた、商才あるんじゃねぇの?」
「ど……どうでしょう、ね。ドーセンさんの売り上げに障りがないように、とは、アラタさんから強く言われてましたので……」
「あいつも殊勝なとこあるなぁ。で、そっちもそれなりに儲けがある、と」
「え、ええ、まあ」
「息子さんもこっちで手伝わせて、しかも意外と良い働きっぷりってこともあるし……息子さんがここで仕事続けるなら、あんたと息子さん二人、三食ここで賄い食うか?」
「え? そんな……いくらなんでも、そこまで甘えさせてもらうのは……」
「気にすんな。今んとこは誰も損はしてねぇはずだ。それに息子さん、いくら育ちざかりっつっても、こっちの懐が痛むほどじゃねぇ。そうすりゃ少しはましな生活になるんじゃねぇか?」
てなことがあって、あの母子の生活は安定し始めてきた。
ドーセンの店の売り上げが上がり、温泉の利用者からの評判もよくなった。
利用者はタオルを自前で用意しろっつってんのに手ぶらで入ろうとする奴が多すぎる、という報告は施設からの手伝い達から頻繁に入ってきてたが、そこまで不満があったのか……。
まぁこっちは利用者に媚び売らずに評判がよくなったみたいだから、それはそれでオッケーか。
ただ、店の方で一つ困ったことが増えた。
イールの人気がさらに高まった。
うんこを連発してたのを聞いてた連中がより親近感を持つようになって、その噂が広まってるんだとか。
こっちのファンクラブの連中の熱が冷めてきたと思ったらこれだよ……。
仲間達は集団戦で忙しくて、ファンクラブの連中を相手にできなくなったことと、戴冠式の注目度が高くなって、王と親しい間柄ということを知ってから何か畏れ多い、つーことで連中の足が遠のいてくれた。
うっとおしい連中が減っていって、それはそれでうれしい現象だったんだが……。
おにぎり頬張りながら、ニコニコしながらうんこ連発してんだもんな。
タフすぎる……。
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