仕事なら、米の選別以外はしたくねぇんだが その2

「ってなことで、のんびりと時間を過ごすつもりが、槍衾を作る仕事を手伝わされてな」

「何というか、最近のアラタを見てると、のんびりというよりぐうたらな生活って感じが……」


 ヨウミ。

 話題の焦点はそこじゃねぇ。


「でも振り返ってみると、一番非力なアラタが一番動き回ってる感があるのよねぇ」

「守んなきゃならない人にい、守ってもらってる感じがあ、すごく強いんだなあ」


 マッキーもモーナーも、よく見てんじゃねぇか。

 もっと褒めろ。


「でも槍衾作りって初めて聞くわね。その様子じゃアラタは知らないだろうから……ヨウミ、知ってた?」

「んーん。あたしも初めて。そう言えば、イールさんっていたでしょ? お昼の時間におにぎり食べに来る……元冒険者、でいいのかな? あの人の村でも作ってたとか」


 相変わらずコーティからは、通常は適当な扱いされてんなぁ。

 それにヨウミは人づてに話聞いたから正確には覚えてなかったか?


「イールの彼氏の村っつってたぞ。名前までは記憶にないが。でも彼氏って確か……魔物にやられて死んだって話聞いた覚えはあるな」

「どれくらい前の話なのか分かんないけど、まだ引きずってるのかな……」

「いや、思い出話って感じだったから、あまり気にしてなかったっぽいな。それはともかく、農作物を食い荒らす魔物っているのか?」


 魔物と言えば、人の作った物を壊して暴れて、人の命を食らう連中ばかりっつーマイナスのイメージが強ぇな。

 こいつらは例外中の例外だろ。

 その例外がよくもまぁこんなに集まったもんだ。


「いるんじゃねぇの? 俺とンーゴなんざ、地中で食えるもん食ってた毎日だったからよお。こんな風に地上に出るこたぁほとんどねえ」

「マモノモ、ニクショクトカソウショクトカ、イロイロイルトオモウゾ」


 魔物と呼ばれる種族の全貌どころか、この村のこともほとんど知らねぇからなぁ。

 でも、米の選別の作業に追われる日々だからなぁ。


「あれ? でもアラタぁ」

「何だよテンちゃん」

「農作物って言うけど……アラタがいつも収穫してるススキモドキはどうなの?」

「あ……」


 槍衾の設置は、主に田んぼと畑と牧場を守るような位置取りだ。

 次に村人の住まい。

 そして農畜産物生産関連の建物とか敷地。

 野生のススキモドキは誰も目もくれない。

 てこたぁ……。

 真っ先に犠牲になるの、俺じゃねぇか!

 ……またも、自己防衛に努める日々がやってくるのか……。

 けど、ちょっと待て。


「あれ?」

「ドシタノ?」

「そんな魔物の気配、全く感じないんだが……」

「予報とか、警戒態勢をとるとかの、緊急じゃない事態なんでしょ?」


 なるほど。

 でもススキモドキ伸び放題の荒れ地にまでは防衛策は取らねえだろうなぁ……。


 ※※※※※ ※※※※※


 人命に危険が迫ってるわけじゃねぇ。

 農作物の危機がやってくるかもしれない。

 というサキワ村の現状。

 となりゃ、俺のする仕事は日常と変わらん。

 そして一日分の仕事を完了させりゃあとはのんびりできるわけだ。

 自分の世界では、そんな余暇にはいろんな娯楽があった。

 けど、のんびりしたい余暇ですら、娯楽に追われてるような気がしなくもなかった。

 それもそうだ。

 何で他人の娯楽に無理やり付き合わされにゃならんかったんだって話でな。

 金も時間もようやく自分のために費やせる、という幸せ。

 誰からも束縛されない……。


「ちょっとアラタ。さっさと仕事してきなさいよ。お手伝い達が戸惑ってるよ!」


 ……俺の妄想の勇み足。

 やることやってからぼんやりするか。

 ということで、小川の傍のススキモドキの草原に到ちゃ……。

 あれ?

 ススキモドキの丈は、平均以下でも俺の身長を越える。

 だから縁までいかないと小川は見えない。

 んだが……。


「……刈られてるっぽいね」

「実った穂だけ持ってかれたって感じ……ですよね」

「昨日はこんな感じじゃなかったよね。小川の場所が見えるよ?」


 俺のへその高さくらいまで刈り取られた範囲は割と広い。

 が、俺の仕事に支障が出るほどじゃないし……。

 誰がなぜこんなことを?

 いや、そんなことはしちゃいかんってことじゃない。

 ただ、こんなことをする意味が分からん。

 考えてることが分からない奴の存在って……なんか怖いよな。


「でも、人の仕業とは限らないよね」

「んじゃ虫?」

「かなり大きくないとこんなに広く刈れないよ?」

「まさか、魔物?」


 槍衾作って設置したばかりだぜ?

 ましてや、そいつらがやってくる気配もなかった。

 魔物だとしても、ススキモドキが刈り取られた断面が、こんなにきれいなはずはない。

 刃物を使って刈り取った跡だとは思うが、とりあえず今は……。


「落ち着け。今現在、危険な存在は、近くどころか周囲にも村の中にもいない。いつも通りの作業すんぞー」


 しかし……。

 米の分量を一日分採集するために調べる範囲とほぼ同じくらい刈られてる。

 まぁここら辺の気配を、これからは重点的にマークしてみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る