アラタの、新たな事業? その7
「お前らの最初の仕事は米を洗うこと。けどまだ米がない。これからススキモドキがうじゃうじゃある所に行って、そこから米を採る。ある程度集まったら、小川で洗う。その後、洗った米を店に運ぶ。まずそれが第一段階だ」
米運びは欠かせない作業。
だがこんな子供らにはそんな総量を運ぶってぇとかなり時間がかかる。
小川の傍のススキモドキ群で採集する方が、いくらかは作業は楽だろうな。
もっとも、楽なのは比較上であって、実際の作業は楽なもんじゃない。
もちろん重い荷物を持たせる気はない。
だから何往復もさせなきゃならんが、適量の荷物を持たせても、往復で三十分くらいかかる、か?
「できるなら、おにぎりを作ってそれが売り物になるくらいにまで手順を覚えて技術を身に付けてもらいたい。でないと誰にも得することを与えられねぇからな。ただ、米集めは俺だけにしかできねぇから、それは覚える必要はねぇ。てか覚えられねぇことだから、無駄なことはしなくていいわ。他のことは知らんけど」
現場まで先頭を歩きながら、後ろを突いてくるガキどもに聞いてほしいことは伝えとく。
何のために何をするのか、を知ってもらうだけでも、物事の道理って奴は身につくんじゃねえか?
知らんけど。
後ろを突いてくるガキどもは六人。
魔物が現れる場所でもねぇし、普通に運ばせるよりもバケツリレーで物運びさせる方が楽でいいか?
にしても、どいつもこいつも俯きながら歩いてる。
無気力というか、希望のない顔というか……。
ま、どんな顔してても、やることをやってくれりゃ問題はない。
が、その心中、反抗的な思いを持つ者も何人かいる。
途中で投げ出したいなら投げ出しても構わんよ。
事故さえ起きなきゃな。
ガキらに何かを教えてやるってのは、俺に課せられた義務じゃねぇからな。
※※※※※ ※※※※※
米袋三つ分。
けど、普通の米袋一つをこいつらみんなで持ち上げようとしても無理だろ。
ということで、一人でも持てる小袋いくつかに分けて、すぐそばに移動。
洗った水の汚れが目立たなくなったら洗米作業終了。
洗い場から店までの間を等間隔でガキどもに待機させる。
俺が洗い場のところを受け持ち、残りの小袋の数を伝えながら次のガキに受け渡す。
途中のところは俺の目は行き渡らない。
が、その気配は察知できるし、買い物に来た冒険者が退屈しのぎに、ガキどもの監視をしてくれた。
ガキどもの機嫌を伺う気はない。
陰鬱な雰囲気に巻き込まれたい願望もない。
が、魔物以外にも害を為す生き物はいるし、それなりに注意しながら作業を進める。
ま、小さい害虫でもその気配は分かるから安全面ではほぼ万全な体勢だな。
「あ、アラタ、みんなもお帰りー」
「……お帰りなさい……」
「おう、ただいま。……お前らも挨拶しろよ」
「……」
店に到着する前から、ヨウミと、仕事を教わってる連中からのお帰りの声が聞こえた。
集団戦の受け付け手伝い達は、それなりに挨拶できるが、こっちはほぼ無反応。
なんだかなぁ。
「さて、全員いるな? 米の洗い方は分かったろ? 物運びは他の職場で役立つかどうかを知らんからどうでもいい。あとはおにぎりを作るだけだが……手洗いとうがいはちゃんとしろ。失敗作は売り場には並べねぇけど、売り場に並べるレベルなら、食う人の安全も考えんといかんからな。これは他の職場でも役立つことだ。覚えとけ」
みんなが俯いてる。
何つーか……やる気がある顔じゃねぇよなぁ。
言われたことをそのままやる人の顔だ。
まぁ下らねぇ反抗を見せられるよりはいいけどさ。
手洗いとうがいは一応監視する。
手抜きとかがあったらまずいからな。
そしていよいよおにぎり作り。
最初は塩おにぎりのみで練習。
売り物にはまずできない。
なんせ作るのはガキどもだ。
大きさが規格外。
「手に水つけ過ぎるとボロボロこぼれるからな。つけないでいると、手にくっついておにぎりができない。ここら辺は経験積んで、いい塩梅ってやつを知るべし、だな。……ほう、みんなそれなりに……悪くねぇな」
大きさ以外は問題ない。
あとは塩加減とかいろいろあるが……。
だがそれにあんまり時間は割けられなかった。
「あー……まぁいいか。午後からでも取り組みゃそれでいいやな。よし、お前ら、昼飯の時間だ。そっちの受け付け組も昼飯にするぞー」
「え?」
「おひるごはん、たべられるの?」
昼飯代の心配はしていた。
だが昼飯の心配はまったくしてなかった。
「お前らが今作ったおにぎり、作った分は食えるだろ」
「う……うん」
「足りねぇ奴は、お手本を食ってみろ。ただし自作のおにぎり全部食ってからな」
「え?」
「いいの?」
「ほんとに?!」
……何だこのハイテンション。
しかも店の方にいた受け付け担当組からも驚いた声が聞こえてきた。
「まぁおにぎりだけだと栄養が偏るから……おかずになるようなもんは注文してやるよ。ただし俺らは別だがな」
……ガキどもの歓喜の声って、どうしてこう甲高いんだ。
うるせぇ!
うれしいのは分かったから、少し黙れっ!
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